2006年4月10日 (月)

多田富雄さんの新聞記事  4月8日朝日

4月8日の朝日新聞に東大名誉教授多田富雄氏の一文が掲載されていたことに気づかれた方も多かったはずだ。著名な免疫学者は「診療報酬改定―リハビリ中止は死の宣告」と題した文章で、自身も重度の右片麻痺があることを紹介し、今回の改定のため脳血管障害リハビリが180日で打ち切られることについて、それがいかに理不尽であるかを詳しく述べた後、「一番弱い障害者に『死ね』といわんばかりの制度を作る国が、どうして『福祉国家』と言えるのであろうか」と憤りをあらわにしている。

 まことに、今回の診療報酬改定はすさまじいものだった。とりわけ、療養病棟、リハビリ、給食は甚大な影響を受けた。患者は病棟から追い出され、リハビリを取り上げられ、関係職員は仕事場と失うという事態がこれから日本中で広範に生じることだろう。

そして2月10日に国会に上程され、4月6日いよいよ審議が開始された「健保法等一部改正案」「医療法等一部改正案」の内容はさらに重大である。新しい高齢者医療制度の創設も含めた高齢者負担の進行も大問題だが、中心は療養病棟の大規模な削減と混合診療の本格的導入にある。

全国に38万床ある療養病棟について法案では、介護保険型25万床は全廃、医療保険型15万床は10万床に削減する計画である。行き先のない要介護者、要療養者があふれ、本人の希望に関係なく在宅死が激増することは避けられない。国はまさにそこを狙っているのだ、老人の早期死亡による年金の支出減らしこそが本当の目的だという声さえ病院経営者からは聞かれる。その先触れとして、70歳以上は2006年10月から、65歳から69歳までは2008年4月から療養病棟の食費・光熱費負担が計画されている。同様の負担増は、2005年10月から介護保険型療養病棟で実施されているが、山口県保険医協会の実施した介護保険入所施設への最新のアンケート調査では、30%の回答率のもとに17人もの経済的退所を確認した。同じことがより医療度の高い病棟で生じるわけだから生命に対する危険は一層高いだろう。

混合診療についてはこれまでの「特定療養費制度」を廃止し、『保険外併用療養』として、将来の保険導入を検討する「評価療養」と、保険導入を予定しない「選定療養」の2種類を設定しているが、そのどちらの範疇からも保険給付を限りなく狭めることが可能な仕組みになっている。すでに、被保険者の負担の高さから国保制度は崩壊に瀕しているが、今度は給付の側から保険診療は崩壊させられようとしているのである。

今起こっていることは、単純に戦後の低医療費政策の延長ではない。大きく変化した日本の支配層の戦略の中心的課題として医療構造改革が進められているのである。

 だとすれば、もはや政権党への期待は無意味である。医師も含めすべての医療従事者は、その全存在をかけて、この医療構造改革を挫折させる闘いを組織せざるをえない。すべての病院,すべての医院が砦(とりで)となって、国民の命と健康、そして自らの経営を守る大運動を展開するときがきたのである。

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