麻生内閣から医師攻撃の発言が続いている。
1:11月10日二階俊博経済産業相は、舛添要一厚生労働相と会談した際、救急医療機関で妊婦の受け入れができない事例が相次いでいることに関し「政治の立場で申し上げるなら、何よりも医者のモラルの問題だと思います。忙しいだの、人が足りないだの言うのは言い訳に過ぎない」と発言した。
2:11月19日麻生首相は、全国知事会議で「自分で病院を経営しているから言うわけではないが、地方病院での医者の確保は大変だ。社会的常識がかなり欠落している人が多い。ものすごく価値観が違う。波長の合わない人間もいる」と発言した。
いずれも、その後陳謝しているが、組織的行動の可能性が高い。
医療崩壊のなかで、人員不足に耐えてがんばっている医師を擁護する世論が次第に強くなっているのを切り崩そうという動きである。
当面、医学部入学者定数は増やして見せたものの、医師総数を抑制するという2回の閣議決定を変更していないし、毎年連続の社会保障費2200億円削減も中止されていない。医師主導の医療崩壊のキャンペーンも実はさほど効果を奏していないと見るべきである。
そして、憂慮すべきこととして、医師のかなりの部分に患者敵視発言のネット上の垂れ流しがある。
医師バッシングはこれを好機と見て必然的に再開されたと考えるのが普通である。
一部の医療崩壊論者が言うような「患者のモンスター化→病院勤務医の疲弊→医療崩壊」というような図式はあまりに皮相である。
少なくとも「医師不足・医療費抑制政策→医療レベルの低下・医療事故の多発→医療不信の増大→医師・患者関係の悪化と一部患者のモンスター化→病院勤務医の疲弊→医療レベルの低下・医療事故の多発→医療不信の増大・・・悪循環」という程度の認識は持って発言してほしいものである。
この情勢の中で大切なのは、圧倒的多数の国民を味方につけること、国民の間にある医療不信をまっすぐ受け止めてその原因に関する理解を共有することの二つである。
* 大筋を変えるわけではないが、麻生首相発言は別の読み方があるのに気付いた。すなわち、従来の日医の姿勢への非難としての読み方である。
麻生飯塚病院の巨大化に伴って、地元医師会との軋轢があったと仮定すると分りやすい。医師会は新規開業規制をするのと同じ論理で、病院の規模拡大に反対することが多い。病院側として、許認可権を持つ県の担当者も地元の医師会の同意を求めてくるため、医師会の意向は無視できない。地域医療に貢献したいという病院の志を同業者エゴがつぶしに来るという感じも生まれなくはない。医師会としては営利的な大病院の活動を住民側の立場で規制するという大義名分を掲げることも可能なのだが。
かつ、医師会は医師数増加にも反対してきたという歴史がある。医師数を増やすこと、病院を強化することに反対してきた非常識な「あんた方」の「あんた方」は医師会幹部のことなのである。
しかし、上に述べた医師会の姿勢も既に過去のものである。読み方を変えても妄言だったことに変わりはない。
**素直に読めば、麻生発言は、「経営者として雇っている側から見て、勤務医に非常識な人が多いので病院経営が大変だ」と聞こえる。
ところで、ほかでもない今、医師会を攻撃するということについては重大な意味がある。地方に住む従来の自民党支持勢力に与えていた既得権を容赦なく切り捨て、輸出型大企業の利益拡大を図ることが小泉構造改革の最大の特徴だったわけだが、それは、2007年参議院選挙で「地方の反乱」として強い反撃を受けた。その結果として、小泉構造改革の急進的部分の手直しのため福田、麻生は起用されたわけである。しかし、米国発の金融危機がはっきりしてきた今、輸出型大企業の権益保護が再び急務となってきて、旧来の自民支持勢力との関係修復はもはやできなくなったということである。
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