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2024年4月26日 (金)

NPO法人ほほえみの郷トイトイ

医療生協健文会山口市事務所の主催で3回目のミニ講演会を開いた。講師は山口市阿東町地福の高田新一郎さん。今日は病棟が忙しすぎて山口市まで行けず、リモートで参加した。

高田さんが事務局長(副理事長兼任)を務めるNPO法人「ほほえみの郷トイトイ」は、総務省主催の2023年度「ふるさとづくり大賞」で優秀賞を受けた。旧阿東町地福地域に存在した唯一のスーパー「Aコープ」がなくなった。そこで地域づくりに専念しようと行政職員を退職。ミニスーパー兼交流拠点「ほほえみの郷トイトイ」を12年に開設し、その後移動販売や介護予防サービス、空き家活用事業なども展開したことが注目されている。「住民一人一人が自分のこととして課題に向き合い、地域づくりに積極的に関わってきてくれたおかげ」と語る。

山口市事務所を作った最大の効果は、これまで宇部に限定されていた視野が急に広がり、まちづくりに携わる人との交流が急拡大したことである。

以下は講演とはあまり関連のない僕の感想。
①山口県は瀬戸内海沿岸の石油を原料にした素材製造工業が突出してながら、第一次産業はおろそかにして食糧受給率は24%で、滋賀県の47%の半分と同規模県最低のいびつな県である。さらに第3次産業は高齢者対象の営利的大規模医療介護法人が目立つ。これはいずれ是正される必要があるが、その具体的な姿は瀬戸内海沿岸から阿東町などの中山間地への人口回帰である。そういう意味では、阿東町が地域を残すために、住民運営の移動販売車などの努力をしていることはまさに未来の準備にほかならない。

②移動販売への不満は、静かな形で現れ、やがて利用低下につながる。それを反省した地域訪問は、アウトリーチの一つで、その際、上から目線で「困りごとはないか」とストレートに聞くのは良くなくて、同じ地域の生活人としてのフラットな会話を豊かにする事が必要だというのは、医療従事者にも共通するパールである。疾患コントロールだけを目的にした質問を先行させても、本当のニーズから遠ざかるばかりである。

③人口減地域のなかでも、ソーシャル・ビジネスについてよく学べば必ず成功し、住民に寄与する企画を見つける事ができる。これは、今後は医師獲得を軸にして事業拡大していくことを展望できない、地方の民医連にとっては、きわめて重要なことである。

④病院職員や医系学生のために、宇部市の貧困地域と合わせて、中山間地に、両立する形で実習フィールドを作りたい。

 

https://nordot.app/1152761365749580409?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTEAAR23dwjseflxtWm5xIwSlQvYM7DCc4n6o4Ugvr_7Y5MXiG4Mm3Mka5KCZJs_aem_AffOR5cuNRBhRD7ASEogd-rUYcv5UDa2IoWuhFeWxFRKKDfK55jV81Mo1LkXFw_-CEW91fTHfL_DhXgOeferYtkx

 

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2024年4月24日 (水)

山口民医連理事会挨拶 2024.4.24  

日本には乾季と雨季しかなくなった、あるいは冬と夏しかなくなったことが実感される今日この頃ですが、今の理事会の任期最後の理事会となりました。
2年間ご苦労さまでした。

別紙に、県連総会方針の情勢部分のために書いた草稿を添付しておきましたが、これに若干関連してご挨拶したいと思います。

全国的な情勢は2024年2月の全日本民医連第46回総会運動方針にゆずって、山口県に限った情勢を述べていますが、2点のみ全国的な話題を取り上げています。

一つは日本版のヘルス・プロモーションである「健康日本21」(第2次、2013-2023)について厚生労働省最終報告書が発表された件です。
「健康寿命」の概念の提唱者として有名で、「健康日本21」の第1次から第3次までの策定専門委員長だった辻一郎東北大名誉教授が「厚生労働省が成果として誇る健康寿命の伸びは過去の遺産によるものでしかない。むしろメタボリック・シンドロームの提唱や、それに基づく住民指導の様々な施策にも拘らず、肝心の生活習慣指標の多くが悪化したに驚きを隠せず、危機感を持つべきだ」としたことです。日本医師会雑誌の4月号に掲載されていますから興味のある方は読まれるといいかと思います。辻さんは国民の生活習慣の悪化は格差や貧困の拡大だということを暗示していますが、辻さんの言うことが正しいのなら、日本国民の健康や寿命は次の10年間に確実に悪化するだろうと思います。これはまさに私たちの出番が来るということにほかなりません。

もう一つは、岩国の米軍基地と呉の海上自衛隊基地が一体になって宮島沖で合同訓練したりしていますが、呉基地は防衛予算の大膨張の中で機能強化が続いていることです。
その中で象徴的なこととして、基地に隣接する日本製鉄呉工場跡地全部を自衛隊が取得するとか、呉基地に配備されている実質の空母で全護衛艦中最大規模の「かが」が大改修を終えて、外洋活動を任務とするということが挙げられます
ご存知のように、4月20日に鳥島沖で海上自衛隊のヘリコプター2機が墜落し、乗員8人全員が死亡して大ニュースとなりましたが、事故が起こった訓練は呉基地に拠点を置く第4護衛隊のものでした。空母「かが」はこの第4護衛隊の主力艦で、今回の訓練の模様の中には空母型の護衛艦も写っていました。訓練の場はまさに太平洋のただ中の外洋で、どうして事故が起こったかに関心が集まるのは当然ですが、それよりもなぜ、いま、ここで訓練をしていたかももっと注目されるべきだと思えます。
今朝の朝日新聞を読むと米軍幹部は2027年に中国軍が台湾を侵攻するとかなり本気で信じこんでいるとわかります。
戦争がすぐそこにある一つの証拠として、呉基地絡みの今回のヘリコプター事故も直視したいと考えます。

さて県内情勢の記述の中では、地域医療計画と医師数動向にややくわしく触れました。
急性期病棟が7年間で1250床も減り救急医療の困難を作り出していること、20年間で45歳未満の若手医師が2/3になってしまい、病院から若い医師が消えていることなどが特徴として挙げられます。

こういうなかで私たちに突きつけられている選択は、
①どういう条件下でも医師を増やし、拡大再生産を続けるのか、
②最小限の医師数でも継続可能な活動スタイルを創造するのか
ということになろうかと思います。
もちろん実際には両者を同時に追求せざるを得ないのですが、この2つは分けて考えたほうが良さそうです。

①では、どういう共通目標を提示して医師に迫るのかが重要です。給与の高さ、労働条件の良さか、女性の働きやすさか。
それとも優れた医療活動方針か。
医療活動方針については、プライマリ・ケア、家庭医療学の追求、コミュニティ・ホスピタルへの変身しか選択肢はないだろうと思います。ならば、いま真剣にこれまでの臓器別スタイルを整理し、職員全員で家庭医療学の核となるところを学び、日々を革新するしかないのです。例えば、ありふれた健診でも、受診者の生活に迫り、単に機械的な特定の疾患の二次予防的なものに終らせない方策が必要です。現状はそこまでもいかず、無味乾燥な営業の一項目になっているだけではないでしょうか。

②ではどういうことが想像されるのか。
例えば、社会福祉法人『むべの里光栄』は従業員数500人、事業所数50を超え、医療生協健文会を超える規模になって、社会的影響力も相当あります。健康祭りのような企画も頻繁で、宣伝がよくポスティングされています。しかし、その活動を支える常勤医師数は1〜2名と推測されます。
もう「そんなことは知らない」という人が大半になったと思いますが、むべの里の1995年の発足は本来、山口民医連最初の老人施設(特養)として計画されて、健文会の前専務理事を役員として送り込んだものです。私も創立時に挨拶を述べました。その後、組織的には全く無関係となり、今日に至っています。

介護事業は医師がいなくても拡大できるという証拠のような話ですが、しかし、すでに市場の独占がほぼ完成され、これからこの地域では後期高齢者も増えないなか、介護事業のどういう拡大が可能なのかはよく考えないといけないことだと思います。

ならば、医師数が少なくても増えなくても、診療所群はどう充実できるのか。また救急が一般救急と高齢者救急に制度的にも分かれ、高齢者救急に専念するという病院も現れて来ると思えますが、そのなかで宇部協立病院はどうするのか。こうした課題は、速やかに全職員で、自分たちの近い未来の問題として議論されなければならないものだと思えます。

その際に、いずれの場合にも共通する私達の最大の強みは、私たちの抜群の生活支援力だということを認識すべきだろうと考えます。
今後、経験豊富で強力な社会福祉士集団形成を前提にした、生活支援に強い旺盛な医療介護活動構想、それは家庭医療構想とも重なりますが、それを限定された医師数のもとでも展開していけるスタイルの創造が、私たちが生き残る道であるし、将来のこの地域の医療介護のあり方も指し示すものなのではないでしょうか。

来季の方針も考えながら、やや長めになりましたが、以上を今期最後の開会挨拶とさせていただきます。
熱心なご討議をお願いします。

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2024年4月22日 (月)

ローカル政治新聞への寄稿 素案

前回は、家庭医療学の核ともいうべき「患者中心の医療」はネーミングが直訳すぎて普及せず、本当は「共通基盤形成と意思決定共有のための医療」とでもすべきであったこと、さらに今後はそれをも超えて、「アウトリーチと居場所づくり」を両輪とする医療に再転換されるべきではないかということを述べて終わりにした。その先に、病院が人々にとっての医療ホーム、つまり一種の家庭になる可能性が見えてくる。

しかし、単調さを避けるため、今回はまっすぐその話にはいかず、家庭医療が持つもう一つの特質につながる話をしたい。

つい先日、地元医師会の病院・診療所連携委員会の懇親会に出席した。久しぶりの対面の会であったが、いかんせん僕ほどの高齢医師はもう委員にはなっていない。子どもに近い年齢の委員たちのお喋りを無聊に聞いていたのだが、突然に声をかけられた。「随分前に、先生に勧められた中国のSF『三体』、ようやく読みました。ネットフリックスでの映画とも合わせて、いやぁ面白かったです。」あぁ、全く憶えていない。「医師会じゃなくて山口県保険医協会の集まりだったから、先生からお聞きしたのは間違いありませんよ」 ―そうか、初対面の人でもなかったのだ。往診専門で随分活躍している明るい人柄の若手。嬉しくなって、つい、次に読むべき本を教えたくなった。「SFが好きならテッド・チャンの『あなたの人生の物語』、映画『メッセージ』の原作。でも、その前にル・グィンの『闇の左手』かな。ル・グインって『ゲド戦記』の作者ですよ」「あ、宮崎駿の息子さんが監督したアニメの原作ですね」「でも、それは失敗作だったけどね」「あ、『闇の左手』、検索するとすごい賞をとってますね」

その夜、僕はなぜか本棚から『ゲド戦記 影との戦い』を探し出して、何十年かぶりに読み直し、読み終わったときはほとんど初めて読んだ気がした。人は自分の中のヒトラーやポル・ポトにもなりうる残酷な邪悪さに対峙してこそ、一個の人間になりうるのだ。

これは家庭医療の「極意」の一つと同じことだ。日々湧き上がる、患者の自己責任を責める自らのネガティブな感情に気づいてこそ、その感情を頼りに目の前の人間の置かれている苦境の認識に至ることができる。「困らせる人ほど、困っている人だ」とも言う。

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2024年4月16日 (火)

山口県の情勢

私たちをめぐる情勢

 全国的な情勢は20242月の全日本民医連第46回総会運動方針にゆずり、ここでは山口県に限定して述べます。しかし、その前に全国情勢に関して一つだけ重要なことを付け加えておきます。

日本版のヘルス・プロモーションである「健康日本21」(第2次、2013-2023)について厚生労働省最終報告書が発表されました。「健康日本21」(第2次)は寿命の伸びより健康寿命の伸びが長かったことを最大の成果としました。大事なのはそれに対する東北大の辻一郎さんの評価です。辻さんは東北大学名誉教授、「健康寿命」の概念の提唱者として有名で、「健康日本21」の第1次から第3次までの策定専門委員長です。その辻さんが要旨【健康寿命の伸びは過去の遺産によるものでしかない。むしろ「メタボリック・シンドローム」の概念提唱、それに基づく住民指導などの様々な施策にも拘らず、肝心の生活習慣指標の多くが悪化したに驚きを隠せず、危機感を持つべきだ】としたことです。国民の生活習慣の悪化の原因は貧困・格差増大・雇用不安定であり、今後国民の健康悪化が顕在化することはほぼ確実だということです。そういう国民の健康の危機の現実化を情勢の最初にあげておきます。

 

山口県における情勢の第一の特徴は山口県の人口急減が続いていることです。1995155万人(全国の1.5%)だったのが、202431日時点で129万人(全国の1%)になっています。減少率は中国5県中最大で、20年後には100万人を割り込むことが予想されています。2030年頃からは全国に先駆けて後期高齢者割合が23%前半から緩やかな減少を見せ始めます。そこで介護需要の上限は見えてきますが、サービス供給はさらに危機的になると思えます。

 産業面では、第1次産業、第3次産業の比率が全国と比べて低く、第2次産業として瀬戸内海沿岸に集中した石油・石炭他の天然資源を大量に消費する素材製造のみが突出しています。第3次産業は人口減にそって衰退傾向ですが、その中をみると医療・介護の占める比率が対全国シェアでも1.3%と相対的に大きくなっています。それを推進している病院チェーンや大規模介護事業者の地域経済への影響力は今後も大きくなると思えます。

山口県の食料自給率は減少を続けており2020年にはカロリーベースで24%と史上最低となりました。最も食料自給率が高かった200835%と比べると7割までに減っています。人口規模が同じ滋賀、沖縄、長崎、愛媛4県と比較しても最下位で、首位の滋賀県の47%の半分です。(2020年の日本全体の食料自給率は37%。アメリカ132%、フランス125%、ドイツ86%、イギリス65%、イタリア60%

 環境破壊力の大きな素材工業に特化しながら、農業を疎かにしてきたため、未来の展望を欠き脆弱になっている山口県像がおのずと明らかになります。

 政治面では、人口減少の結果として衆議院小選挙区の定数が4から3に減らされましたが、安倍長期腐敗政権の終焉は基礎自治体レベルでの住民本位の政策活動の活発化の可能性も開いていると言えます。

 医療面では、国の地域医療構想に基づく病床減らしが進行し、2015年の22273床が2022年には19596床と2677床減少しました。国全体の目標が2015125万床から2025119万床へと6万床の減少であることから考えると、人口比で4倍もの減少です。介護保険適用療養病床の廃止に伴って慢性期病床が減っていますが、多くは介護医療院に転換していると見られます。したがって実質的なベッド減少は高度急性期717床減、急性期533床減、合計1250床減に集中しています。この結果、救急医療の深刻な後退が問題となっており、救急車が出動しても病院に搬送せず重症化を招くケースが頻発しています。この事態に対して、高齢者救急は中小病院の地域包括ケア病棟が受け入れる(サブアキュート機能)、そして中小病院の慢性期・在宅の機能を大病院も活用する(ポストアキュート機能)という方向性が打ち出されています。医療介護複合体としての中小病院の役割が重みを増しているとは言えますが、その一方で住民本位、住民参加の地域医療の方向性が放棄され、個別の経営体の意向に依存する危険性が強くなっています。

 山口県の医師数は、1998年を100とすれば2020108.5と微増を見せていますが、、全国が136.6、大都市6府県に限れば143.6となっているのと比べると、あまりにも大きな違いを生じています。さらに45歳未満の医師数は山口県67.3、全国103.8、大都市6府県117.2と驚くような差があることがわかります。3割以上も若手の医師が病院から消えているのです。もちろん全国的な絶対的医師不足が背景にありますが、山口県の医師供給は二重に厳しい状況に置かれていると言えます。こういうなか、県の医療行政の幹部からは、個別の病院が医療構想を描き医師充足を願っても県が調整することはできない、医師補充は各病院トップの才覚によるというという責任放棄的言明が漏れてきます。

これに対して、看護師養成数は人口比で全国の2倍近く、4年制のコースも従来の4施設に周南公立大学、下関市立大学が加わります。さらに社会福祉士、介護福祉士養成コースを持つ大学や専門学校も多く、この方面でのケアの充実の可能性は残っています。

 今後少ない医師数を前提に、その他の医療従事者の態勢を厚くして住民要求に応え、苦しくても民医連を存続させる手立てを真剣に模索しなければならない時期が来ています。

 まちづくりに関する市民レベルの活動は、県内の子ども食堂の数が150箇所を超えていることが目立ちます。実際に開催されている回数は多くなく、自治体・企業主導と思えるところもあります。そのなかで山口市阿東町での営農型太陽発電(ソーラーシェアリング)やフード・デザート(食の砂漠)になった地域での移動販売など市民の主体的な動きの先駆けとして注目すべきものがあります。また、自主的な防災組織が形式的には住民の96%をカバーし、防災のための特定非営利法人なども組織されていますが、住民による避難所点検などの活動は見えません。

しかし、この領域では私達のアンテナが低すぎることがむしろ問題であるように思えます。知るべきことから目をそらしているとも言える現況を変えることが望まれます。

 医療・福祉から目を転じて特記すべきこととしては、米国海兵隊岩国航空基地の拡大に呼応するかのように、近接する海上自衛隊呉基地の機能強化が、日本の防衛費膨張に伴って急速に進んでいることです。呉基地を母港とする自衛隊最大の護衛艦「かが」は戦闘機F35Bの発着を可能とする改修を終え、南西諸島周辺での太平洋上での任務も想定していると言われます。岩国呉を結ぶラインの軍事面での重要性の増大は、東アジアでの戦争への傾斜をさらに深めていると言えます。山陽小野田市への海上自衛隊宇宙状況監視レーダー設置もその一環と思われます。
 上関町での原発・中間貯蔵施設建設の動きは重要ですが、別項に譲ります

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2024年4月11日 (木)

現実の空間

最上流に貧困と格差があり、中流に生活環境、人間のつながり、精神状態、生活習慣の悪化が生じ、最下流で寿命・健康寿命の短縮、有病率の上昇、自殺の増加に至る。さらにその全体を災害への遭遇による不慮の生活と健康喪失率の上昇が包み込んでいるという図式。
これらは、現実の空間にアット・ランダムに目に見える形で現れており。なにか構造を想定して順位をつけて着手する必要があるものではない。
どこから手を付けてもいずれは全体像に対峙しなくてはならなくなる。

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2024年4月 9日 (火)

Seoc-Kyun Woo先生の紹介する韓国医療の現状

Seoc-Kyun Woo先生の紹介する韓国医療の現状
ただ、これを読んで、今の日本の医療がまだマシと思うのは気をつけなければならない。日本医療は韓国の現状の方に近づこうとしているのだから。


毎年3000人輩出される医師の大部分が開業医となる。その結果、集中治療センターでは、医師、特に専門医の確保がますます難しくなった。なぜ韓国では専門医が開業医になるのか?
まず、大病院は収益性の低い診療科目の専門医を雇用しない傾向だ。代表的なのは胸部外科、脳神経外科、小児科。救急患者が増えても、入口になる救急専門医を雇用しない。
一方、内科系と整形外科の医師たちは、大病院が雇用しようとしても、開業のほうが所得が高く、確保が難しい。開業医は栄養注射、頻回受診、自費診療のようなもので収益を生みやすい。美容形成市場の膨張も原因であり、脱毛、肥満などの需要拡大も開業医の集中を大きく煽った。

過去20年間、医療商業化が医師供給の不均衡を深化させたにもかかわらず、これを正すべき政府は「医療先進化」、「新成長の動力」として医療市場化を加速した。医療市場化の天国である米国を除き、福祉制度として医療に対する理解のある国の大半は、新医療機器や治療材料をその効能と危険度を厳密に評価して規制するのに対し、韓国は新医療機器に対する安全性評価を無条件に簡素化してきた。
ユン・ソクヨル政府は安全性評価は後にして市場進入を推進する「先行進入、事後評価」まで推進する。そのため、開業医ができる保険外診療の種類と量は毎年増加している。供給主導のモラル破壊が広がっている。

ケースを一つ見てみよう。昨年7月に許可された膝関節の自己骨髄幹細胞注射は、SNS広告を通じて爆発的に増加している。 3万ウォンの軟骨注射と比較してあまり差もない代替治療が規制もなく広告に広がるのも問題だが、患者が出す数百万ウォンが営利的開業医の集中をあおって医療供給構造を歪曲させることはより大きな問題だ。
2番目の重要な問題はここから起こる。高価な保険外診療が急速に広がる民間医療保険市場の膨大な拡大だ。 4000万人以上が加入した生命保険は、こうした保険外診療市場を創出する(触るものが金になる)ミダス王の手だ。保険外診療を中心とする病院・医院が生命保険加入の有無を尋ねるのは常識だ。子宮筋腫治療などに選択的に活用される数百万ウォンの治療においても、医師ではなく保険相談士が生命保険加入を積極的に勧誘する。保険相談士が膝関節遺伝子治療剤として広告した数百万ウォンの偽薬「インボサ」も同じ事例だ。すべて生命保険がなければ容易ではないことだ。

https://world.kbs.co.kr/service/news_vod_view.htm?lang=j&menu_cate=videonews&id=&Seq_Code=72196

この渦中、ユン・ソクヨル政府は生命保険利用を奨励する「生命保険請求簡素化法」を国会で通過させた。来る10月からは民間保険会社が患者個人医療情報を蓄積して自らの利益になるように保険加入と保険金支給に活用できるようになる。医療機関は、生命保険加入者相手の無駄な診療をさらに増やすだろう。大幅に増加する保険外医療市場は、医師と政府の両方に責任がある。
市場中心の供給構造で保険外診療を煽り、生命保険を活性化する政策は韓国医療を奇形にする原因の原因として機能してきた。その結果、救急、集中治療、手術診療に集中する医師の開業ブームが起き、今では救急医学の専門医も集団開業をする段階に達したのだ。

しかし、プライマリ・ケアを担う地域の公共医療機関は役割を果たせず、無限の市場競争に追い込まれ、高価な賃貸料やインテリア費用などを患者のポケットから回収しなければならない事業となった。
したがって、今の医療大乱を解決するには、医療の使命が何であるかを議論し、公的社会サービスとしての医療を取り戻さなければならない。 今、保険外診療、民間生命保険規制を通じて正常なプライマリ・ケアを担う公共医療機関を拡大しなければならない。これが医療の公共性だ。
最後に、日本も医師の開業の自由を認めるが、純粋な営利組織としての運営は許していない。強力な自費診療規制である「混合医療禁止」が社会的に合意されており、日本の医師は自費診療に向かわず、必要な医療行為はすべて保険適用にしようと努力をしてきた。
「混合診療禁止」は、営利的な韓国の外来診療サービスを正す最小限の措置だ。

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2024年4月 8日 (月)

マインドフル内視鏡

マインドフルになろうと努力しているせいか、今日は十二指腸球後部の、スコープ操作しにくい場所での出血中の露出血管処理中、急に「いや、これだけみんなが協力してくれているのだから、時間かければ必ずクリップをかけることはできるはずだ」という不思議な安心感に包まれるという経験をした。おかげで愚痴ることなく処置ができた。終わると口も利きたくないほど疲れてはいたが。

ただこういう境地になれたころ、左手の第1指の変形性関節症は、無理なスコープ操作が自分を痛めつける事態になっているのだった。

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ル・グウィン「ゲド戦記」

40歳ごろル・グウィンの名高い「ゲド戦記」を買ってみたが、こんなファンタジーを読む暇が俺にあるかという気がして中断していた。高校生の頃にこれを手にとるような優雅な少年時代でもなかった。
その後、大人向けのル・グィンのエッセイ集やSF「闇の左手」を読み終えて、30年後にしてようやく「ゲド戦記」を読みすすめることができるようになった。
これは作者ル・グィンへのレスペクトが僕の中に育ってきたからだろう。
そういうもの頼ることなく作品自体をそのまま受け止める器量はなかったということである。
ただ、マイケル・マーモット「健康格差」の表紙裏の見開きに、マーモットさんが活躍する世界地図を載せようと思ったのは、この本のそこにある「アースーシーの世界」の地図の影響だとはっきりわかった。
p72
「見せかけではなく、本当に物質を変える魔法は、それが本来持っている真の名を変えることであり、どんな一かけらでもそうすれば宇宙そのものを変える。だからその影響がはっきり見極められるまでは、砂粒一つも変えてははならない。あかりを灯すことは闇を生み出すことになる」
ル・グィンが1968年ごろにこれを書いた真意はもちろん核の問題だったのだろ

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