私たちをめぐる情勢
全国的な情勢は2024年2月の全日本民医連第46回総会運動方針にゆずり、ここでは山口県に限定して述べます。しかし、その前に全国情勢に関して一つだけ重要なことを付け加えておきます。
日本版のヘルス・プロモーションである「健康日本21」(第2次、2013-2023)について厚生労働省最終報告書が発表されました。「健康日本21」(第2次)は寿命の伸びより健康寿命の伸びが長かったことを最大の成果としました。大事なのはそれに対する東北大の辻一郎さんの評価です。辻さんは東北大学名誉教授、「健康寿命」の概念の提唱者として有名で、「健康日本21」の第1次から第3次までの策定専門委員長です。その辻さんが要旨【健康寿命の伸びは過去の遺産によるものでしかない。むしろ「メタボリック・シンドローム」の概念提唱、それに基づく住民指導などの様々な施策にも拘らず、肝心の生活習慣指標の多くが悪化したに驚きを隠せず、危機感を持つべきだ】としたことです。国民の生活習慣の悪化の原因は貧困・格差増大・雇用不安定であり、今後国民の健康悪化が顕在化することはほぼ確実だということです。そういう国民の健康の危機の現実化を情勢の最初にあげておきます。
山口県における情勢の第一の特徴は山口県の人口急減が続いていることです。1995年155万人(全国の1.5%)だったのが、2024年3月1日時点で129万人(全国の1%)になっています。減少率は中国5県中最大で、20年後には100万人を割り込むことが予想されています。2030年頃からは全国に先駆けて後期高齢者割合が23%前半から緩やかな減少を見せ始めます。そこで介護需要の上限は見えてきますが、サービス供給はさらに危機的になると思えます。
産業面では、第1次産業、第3次産業の比率が全国と比べて低く、第2次産業として瀬戸内海沿岸に集中した石油・石炭他の天然資源を大量に消費する素材製造のみが突出しています。第3次産業は人口減にそって衰退傾向ですが、その中をみると医療・介護の占める比率が対全国シェアでも1.3%と相対的に大きくなっています。それを推進している病院チェーンや大規模介護事業者の地域経済への影響力は今後も大きくなると思えます。
山口県の食料自給率は減少を続けており2020年にはカロリーベースで24%と史上最低となりました。最も食料自給率が高かった2008年35%と比べると7割までに減っています。人口規模が同じ滋賀、沖縄、長崎、愛媛4県と比較しても最下位で、首位の滋賀県の47%の半分です。(2020年の日本全体の食料自給率は37%。アメリカ132%、フランス125%、ドイツ86%、イギリス65%、イタリア60%)
環境破壊力の大きな素材工業に特化しながら、農業を疎かにしてきたため、未来の展望を欠き脆弱になっている山口県像がおのずと明らかになります。
政治面では、人口減少の結果として衆議院小選挙区の定数が4から3に減らされましたが、安倍長期腐敗政権の終焉は基礎自治体レベルでの住民本位の政策活動の活発化の可能性も開いていると言えます。
医療面では、国の地域医療構想に基づく病床減らしが進行し、2015年の22273床が2022年には19596床と2677床減少しました。国全体の目標が2015年125万床から2025年119万床へと6万床の減少であることから考えると、人口比で4倍もの減少です。介護保険適用療養病床の廃止に伴って慢性期病床が減っていますが、多くは介護医療院に転換していると見られます。したがって実質的なベッド減少は高度急性期717床減、急性期533床減、合計1250床減に集中しています。この結果、救急医療の深刻な後退が問題となっており、救急車が出動しても病院に搬送せず重症化を招くケースが頻発しています。この事態に対して、高齢者救急は中小病院の地域包括ケア病棟が受け入れる(サブアキュート機能)、そして中小病院の慢性期・在宅の機能を大病院も活用する(ポストアキュート機能)という方向性が打ち出されています。医療介護複合体としての中小病院の役割が重みを増しているとは言えますが、その一方で住民本位、住民参加の地域医療の方向性が放棄され、個別の経営体の意向に依存する危険性が強くなっています。
山口県の医師数は、1998年を100とすれば2020年108.5と微増を見せていますが、、全国が136.6、大都市6府県に限れば143.6となっているのと比べると、あまりにも大きな違いを生じています。さらに45歳未満の医師数は山口県67.3、全国103.8、大都市6府県117.2と驚くような差があることがわかります。3割以上も若手の医師が病院から消えているのです。もちろん全国的な絶対的医師不足が背景にありますが、山口県の医師供給は二重に厳しい状況に置かれていると言えます。こういうなか、県の医療行政の幹部からは、個別の病院が医療構想を描き医師充足を願っても県が調整することはできない、医師補充は各病院トップの才覚によるというという責任放棄的言明が漏れてきます。
これに対して、看護師養成数は人口比で全国の2倍近く、4年制のコースも従来の4施設に周南公立大学、下関市立大学が加わります。さらに社会福祉士、介護福祉士養成コースを持つ大学や専門学校も多く、この方面でのケアの充実の可能性は残っています。
今後少ない医師数を前提に、その他の医療従事者の態勢を厚くして住民要求に応え、苦しくても民医連を存続させる手立てを真剣に模索しなければならない時期が来ています。
まちづくりに関する市民レベルの活動は、県内の子ども食堂の数が150箇所を超えていることが目立ちます。実際に開催されている回数は多くなく、自治体・企業主導と思えるところもあります。そのなかで山口市阿東町での営農型太陽発電(ソーラーシェアリング)やフード・デザート(食の砂漠)になった地域での移動販売など市民の主体的な動きの先駆けとして注目すべきものがあります。また、自主的な防災組織が形式的には住民の96%をカバーし、防災のための特定非営利法人なども組織されていますが、住民による避難所点検などの活動は見えません。
しかし、この領域では私達のアンテナが低すぎることがむしろ問題であるように思えます。知るべきことから目をそらしているとも言える現況を変えることが望まれます。
医療・福祉から目を転じて特記すべきこととしては、米国海兵隊岩国航空基地の拡大に呼応するかのように、近接する海上自衛隊呉基地の機能強化が、日本の防衛費膨張に伴って急速に進んでいることです。呉基地を母港とする自衛隊最大の護衛艦「かが」は戦闘機F35Bの発着を可能とする改修を終え、南西諸島周辺での太平洋上での任務も想定していると言われます。岩国―呉を結ぶラインの軍事面での重要性の増大は、東アジアでの戦争への傾斜をさらに深めていると言えます。山陽小野田市への海上自衛隊宇宙状況監視レーダー設置もその一環と思われます。
上関町での原発・中間貯蔵施設建設の動きは重要ですが、別項に譲ります
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