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2023年11月27日 (月)

謎は解けた

2023.11.29 県連理事会挨拶                              野田浩夫

寒暖差が激しい11月末で、年末の計画も立てにくく感じるこの頃ですが、会議参加ご苦労さまです。

ガザが束の間とはいえ休戦したのは、世界中の「ただちに停戦を!」の声が反映したものと思います。引き続き停戦を求める声を挙げていきましょう。

 

一つの話題提供ですが、農協系病院の機関誌「文化連情報」に日本福祉大学前学長の二木 立氏がイギリスの「社会的処方」の実態について書いているのを読みました。今年5月のイギリス医療視察報告ですが、これまで私達が聞いて、なんとなく理解しにくかった「社会的処方」の実際がよくわかった気がしたのでご紹介しておきます。【資料1】

二木先生によると、雇用・住宅、借金、孤独などの「純粋に社会的理由による受診」がイギリスの一般診療所の全診察の1/5、病院の救急外来の1/4を占めるといいます。

私としては、これを「社会的入院」という言葉にならって「社会的受診」と呼びたと思いますが、二木先生の言うこの比率は私の日常診療の実感に近いものがあります。純粋でないものでいうと、ほぼすべての受診が広い意味の社会的受診だということも可能だと思います。

そういう社会的受診に際してイギリスで最初に提唱され、日本でも注目されているのが「社会的処方」です。二木氏の記事の主眼は、これまで日本に伝えられてきたのと違って、イギリスにおいて「社会的処方」を行うのは医師ではなく、NHSという英国の医療制度の費用で診療所単位に雇用されている「リンク・ワーカー」、日本で言えば社会福祉士などだということです。

これまで日本に伝わってきていたのは、外来の医師が、まるで薬の処方のように社会的処方を組みたて、診療所外にいる市民である「リンク・ワーカー」にそれを渡す。それに日本で似ているのは民生委員ですが、この人が、薬で言えば薬剤師のように各種社会資源を患者のために準備するというイメージでした。医師が社会的処方箋を作る、市民の中の篤志家がそれを受け取り実現していくというのが、やはりわかりにくいものでした。

しかし、今度二木先生が見てきたのは、医師は患者に社会的受診の要素を認めれば、診療所の職員であるリンク・ワーカー、具体的には社会福祉士という専門家に社会的処方の発行を託し、自らはそのまま診療に集中できるのです。職員であるリンク・ワーカーが地域の社会資源に精通して、孤立した人が参加できる集いの紹介など患者と住民グループの橋渡しもするというものでした。これなら納得ができます。

イギリスでは孤独が大きな社会問題となってこのようなことが提唱されているのですが、山口県のように人口減少・高齢少子化が激しく進み、貧困・孤立が深刻化しているところでは「社会的処方」の必要性はさらに大きいと思えます。

 

それとは別にごく最近、栃木県宇都宮市医師会に「社会的処方」の実現を目指した「社会支援部」が誕生したことを別の機会で知りました。なにより大抵は保守的な医師会がそのような試みに着手したということに衝撃を受けました。そこで、山口県保険医協会にお願いして、宇都宮医師会の担当理事から直接説明を聞く機会を作ってもらいました。

宇都宮医師会の苦労は、一番に社会的受診の要素を見抜く医師の眼力を育てることにあるそうです。これはSDHを熟知する医師を育てる以外にありません。

二番目にして最大の問題は、今は開業医の近くには存在しないリンク・ワーカー候補の人々との連携だそうです。

ここで思うに、日本では開業医は個人事業主だから、イギリスのように保険制度から保障されないと社会福祉士を診療所に雇うことはできません。このあたりに、市民の篤志家の中にリンク・ワーカーがいるという、ある種のフィクション、社会的処方を医師の間に広めるためのやむを得ない歪曲が生み出された理由があるかもしれません。

 

その辺の謎は解けたのですが、社会的受診に社会的処方をという方向性は様々な工夫をして日本に、特に山口県に定着させなければならないものと思いますので、皆様も是非協力していただきたく存じます。

 

 それから11月19日に山口民医連医師団会議が開かれました。10年先の山口民医連を担う若手医師が企画してくれたので斬新なものになりました。

 私も医師団会議を意識して医学書院の雑誌「病院」1年分をまとめて読みました。そのなかにあった、中小病院のあるべき姿としての「コミュニティ病院」について連載をまとめて【資料2】としています。実を言うと私達はすでに在宅医療・介護と一体になりつつ、高齢者救急に主眼をおいた急性期・回復期のミックス病院を死守するという「コミュニティ病院」の外形は実現させ維持しています。

そういう意味では私達の方針は時代の主流をしっかり捉えて、未来への準備を可能な限りやってきたと言えます。問題は、外形ではなく、その中心に据える家庭医療医集団の形成にあります。これができれば未来は必ず明るいと思います。

そういう意味で【資料2】も目を通していただければ幸いです。

 

今日は宇部学として特別に県立広島大学の志賀信夫先生に貧困論の講義をお願いしています。

 

熱心なご参加をお願いして私のご挨拶といたします。

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