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2023年11月26日 (日)

社会的受診

保険医協会のニュースに寄稿。
様式からしてもともと苦手な媒体なので、うまく書けない:

医療保険財政から厳しく糾弾され、すでに死語になったかと思える言葉に「社会的入院」がある。昔、瀬戸内海の離島に住む筆者の祖父が簡単に通院できないという理由で広島市内の病院に半年くらい入院していたことを思い出す。雪深い岩手県では「越冬入院」というのがあるのをTVで見たこともある。
今回のテーマは直接それに関係がないが、それからの連想で「社会的受診」という用語を思いついた。この連想が以下の説明に役立つかどうかは心許ないのだが。
かってリハビリの領域で画期的な知見を示した医師で、医療経済学でもその鋭さが刮目される二木 立氏が、日本医師会の「西欧医療調査団」(2023.5-6)に参加した見聞録として農協系の病院の雑誌「文化連情報」11月号で書いていた(日本医事新報9月2日号にもあり)記事をまず紹介したい。
二木氏によると雇用・住宅の不良、低年金、借金・自己破産状態、孤独などの「純粋に社会的理由による受診」がイギリスの一般診療所の診察の1/5、病院の救急外来の1/4を占めるというのである。
これは筆者の日常診療の実感と大きく違わない。しかもそれはあくまで純粋形の社会的受診であって、残りの受診の理由の中にも社会的理由は色濃く影響し、広義の社会的受診の要素はおそらくすべての患者に認められるように感じられる。
そういう受診に際してイギリスで提唱され、日本でも注目されているのが「社会的処方」である。二木氏は、イギリスにおいて「社会的処方」を行うのは医師ではなく、NHSの費用で診療所に雇用されている「リンク・ワーカー」、日本で言えば社会福祉士などだと観察している。つまり医師は患者に社会的受診の要素を認めれば、リンク・ワーカーに処方を依頼して社会的問題への対処を託し、自らはそのまま診療に集中できるのである。
社会福祉サービスが薄くなって医療とりわけNHSに注文が集中しているイギリス、しかしリンク・ワーカー分の人件費支出をいとわないNHSという彼の地の特殊事情も説明されている。
にわか造語を用いて申し訳ないが、社会的受診への対処は山口県のように人口減少・高齢少子化が激しく進み、地域問題としての貧困・格差・孤立が深刻化しているところでは極めて大きな問題である。山口県保険医協会、地域医療部の課題として正面から取り組まなければならないと考え続けてきた。それに対するに「社会的処方」のアイデアは惹きつけられるものがある。
しかし、筆者の勤務する民医連のような運動体では患者の生活支援に特化した社会福祉士部門を設置することは可能で実践もしているのだが、いわば個人事業主の集まりである保険医協会の形態ではそうしたアプローチは無理なのではないかというのが正直な思いだった。
そういうなか、栃木県宇都宮市医師会に社会的処方の実現を目指した「社会支援部」が誕生したという演題発表(日本HPHネットワーク2023年春季セミナー)があるのを知った。県庁所在地とはいえ一つの医師会がそのような試みに着手したということが驚きだった。
そこで発表者である同医師会担当理事の村井邦彦先生に概要をリモートで話していただいた(10月30日)。実にヒューマンで、かつ明快な説明を受けた。苦労されているのは、一番に社会的受診の要素を見抜く医師の眼力を育てることである。健康の社会的決定要因(SDH)の知識が出発点になる。二番目にして最大の問題はリンク・ワーカーとなる資源との連携である。すでにある地域包括支援センター中心のネットワークと開業医層が直接に結びついて、より高みを目指すのはやはり相当にエネルギーを必要とする。
話を聞くなかでこれらのことの難しさは十分想像できたが、やはり山口県保険医協会として正面から取り組むべきだというのが、一緒に話を聞いた地域医療部部員全員の合意になったと思う。
 そこで、今後は理事会とも相談しながら、2024年6月辺りに、「社会的処方」の概念について知り、実際にリンク・ワーカーの役割を果たしていただけるみなさんとの交流が図れる比較的大きな集まりを計画する予定となった。
 まだまだ、始まりの始まりに過ぎない段階だが、この時点で宣伝を兼ねたご報告とさせていただく。

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