山口県社保協総会挨拶
毎年、暑さが記録更新されている、地球「沸騰」時代の猛暑のさなか、みなさま総会参加ご苦労さまです。
山口民医連の野田です。県社保協創立時からのメンバーですが、総会には久しぶりに参加します。なぜか開会の挨拶を承りました。どうぞよろしくお願いします。
県社保協を作った頃を考えていると、同じ頃にご縁のあった真田 是(なおし)先生のことを思い出します。
小川政亮(まさあき)先生と並び称された日本の社会福祉学の権威ですが、1994年に立命館大学を定年退職なさると同時に、同じ年にスタートした山口県立大学の社会福祉学部の教授として山口に赴任されました。できたばかりの山口県社保協にとってもそれは大変心強いことでありました。
僕はその頃社会保障の勉強に燃えていて、すぐに真田先生に会いに出かけ、山口民医連の「社会保障学校」という小さな集まりで連続講義をお願いしました。
セミナーパークの殺風景な部屋に小柄な先生がさっそうと現れて、まっすぐ本題に切り込む講義をなされたのを覚えています。
実はこの1週間は真田先生の「民間福祉論:社会福祉における公と民」という本を読み返していました。1996年の本です(かもがわ出版)。
「公」すなわち国や自治体に社会保障・社会福祉の充実を要求し続けることは当然必要だが、それだけで前進できるのだろうかという疑問に真田先生ならどう答えていただけるだろうかというのが僕の問題意識でした。
結論だけ言いますと、非営利・協同の民間セクターと公的セクターの労働者が固く団結して、市民が主人公となる社会保障・福祉の「実践」を作り出す以外に前進の道はないということです。そうすれば営利セクターに働く介護・福祉労働者もその後を続くと思います。
我田引水で申しわけありませんが、民医連のことを少しお話させていただくと、民医連は民間でありながら非営利・協同の立場で医療と介護を提供、実践する組織です。
民間福祉の牽引車であることは間違いないと思います。
しかしいつからか、医療と介護だけでは限界があると僕は感じ始めるようになりました。
医療や介護の提供の土台として、まずは生活支援とソーシャル・ワークがなければならない。それなしに、どんな治療も介護も成立しないのではないか。
ならば生活支援とソーシャル・ワークを医療・介護に次ぐ第3の事業として民医連は確立しないといけないと考えて、地域福祉室という患者の総合的な支援に専念する組織を作り、さらには民医連の病院や診療所のない山口市に生活支援とソーシャル・ワークの拠点を作りました。
すると、予想通り、これまでの我々から見ると圧倒的な数と質の市民の相談が集まり始め、市の福祉関係の部局と交渉することが急速に多くなりました。その分だけ市民から民医連への支持や信頼も増したと思います。
もちろん自治体の窓口と言っても、当人は非正規で全く裁量権もない担当者の心無い言葉に憤ることが多いわけですが、相談者と自治体担当者との三角形の話し合いを粘り強く積み重ねていく中で、新しい社会保障、社会福祉を作っていけるという実感が日に日に強まっていると言って過言ではありません。
そして、少し新しい話題ですが、その先に私が期待しているのは、全ての自治体が社会保障・社会福祉のためにこそあるのだという原点を示す「生活保障基本条例」の制定です。
これは、今日の記念講演をお願いしている二宮厚美先生が共同代表をなさっている「新福祉国家構想研究会」で具体化が検討されていると聞いています。
今、どの自治体に行っても「中小企業推進基本条例」が制定されていると思いますが、それと同じような社会保障のための基本条例が全部の自治体にできれば、住民自治、地域主権の確立がぐっと現実性を帯びて来るのだと考えます。
今日、その話をするのは飛躍しすぎるという誹りは避けられないかもしれませんが、実は「生活保障基本条例」制定を現場で推進していくのが、この県社保協のこれからの真の役割ではないかと密かに思っている次第です。
さて、それ過ぎた話を真田先生に戻しますと、真田先生に最後にお会いしたのは、先生が進行した食道癌の手術をされて、少しづつ講演活動も再開された、2000年代最初の頃です。
宇部協立病院での講演前に食事をということで空港に近い亀浦苑というレストランに寄りました。
僕に気を使っていただいたのだと思いますが、「手術の後だが、鰻なら食べることができるかもしれない」と言われて鰻重を注文されました。
それも少ししか食べることができなかったのを覚えています。
その後まもなく先生は亡くなられてしまうのですが、病気を押して最後まで社会保障論の真髄を伝えようとされた、病気で小さくなられた先生の姿を思いだすと、その志だけは県社保協という立場で継いでいかなければならないといつも思っています。
挨拶と言っても、年寄りくさいまとまりのない世間話になってしまいました、
以上で私の総会開会挨拶と致します。
熱心なご議論をお願い致します。
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