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2022年3月25日 (金)

2022.3.26 医療生協健文会理事会あいさつ


早いもので、もう年度末の理事会になり、まもなく桜も咲くという時季になりましたが、皆さまご苦労さまです。

衝撃だった2月24日早朝のロシア軍ウクライナ侵攻から4週間が経過しました。

ウクライナのゼレンスキー大統領の国会演説が3月23日にはあったのですが、そのなかに国連が機能しなかったという部分がありました。

国連憲章自体が51条で妥協的に集団的自衛権を認めてしまっており、今までに何回も不当な侵略の口実に使われて来て、今回も「ウクライナ東部の2共和国の要請」という形でロシアに利用されるという状態が続いています。

日本国憲法は前文で「平和を愛する諸国民の公正と信義」つまり国連、に信頼を寄せて、「われらの安全と生存を保持しよう」という決意を示し、その延長線上に戦争と戦力を放棄した憲法9条があるのですからも、今後私達が9条を実現していこうとすれば国連機能の抜本的強化は欠かせないものだということを改めて感じた次第です。

さて、今回のウクライナの戦争については、洪水のように報道がされていますが、気候危機との関連をただ一人明確に指摘しているのが若手の経済学者 斎藤幸平さんです。その指摘は、私達にとって極めて有益なものと思えますので、ここでかいつまんで紹介しておきたいと思います。

朝日新聞のAera電子版に掲載されたものです。

斎藤さんが論じているのは「気候変動のがロシアの政治経済にもたらしている影響の分析」です。

その前提となるのが、今が「人新世」だという認識です。「人新世」とは、人類があまりに巨大な力を持つようになった結果、地球という惑星のありかたを改変した時代、改変し過ぎた自然に人間が襲われている時代を言います。

その最たるものが、気候危機です。気温上昇によって、地球環境は人類にとって過酷なものになり、干ばつや豪雨、山火事などが多発し、食糧や水といった最低限の生存のための条件も今後、危うくなっていくことは確実です。

たしかに、今回のロシアの戦争は世界大戦へと突入していった100年前の帝国主義時代のナチスドイツや軍国主義日本によく似ていますが、違いがあるのは気候危機のなかの帝国主義だということです。

今回のロシアの侵略戦争の原因を、ロシア帝国再建という帝国的野望だけに限定しないで「人新世」の気候危機に追い詰められたロシアの振る舞いとしてみるとよく分かるところがあります。

まず、今の欧米や中国の資本主義は気候戦争を戦っているというということがあります。日本は決定的に出遅れているので日本にいてはわかりにくいのですが、再エネ利用や電気自動車への経済インフラの全面転換のなかで、欧米や中国は、自分たちが独自に制定する基準のもとで、他国の規格外の商品を排除しつつ、自国の新商品を他国に売りつけようと争っています。「緑の資本主義」といわれています。

しかし、「緑の資本主義」も資源やエネルギーを必要とします。必要とされるのは、もはや化石燃料ではなく、リチウム、ニッケル、コバルトなどの資源獲得をめぐって、南米やアフリカで米欧中の緊張関係が高まっています。リチウムは「21世紀の石油」なのです。

そうした転換は、これまでの化石燃料の輸出しか国力の源がなかったロシアなどを追い詰めます。

一方、現在の「緑の資本主義」は、気候変動対策としてはまったく不十分であり、世紀末までの気温上昇は、パリ協定の1・5度目標を大きく上回る2・4~2・7度になると言われています

ロシアへの気候変動の負の影響は極めて大きく、ロシアにおける気温上昇は世界の他地域と比べて2.8倍のペースで大きく進んでおり、その結果、永久凍土の融解が進行し、その上に乗っているビル、道路、空港、パイプラインにすでに大きなダメージが出ています。

気候危機によって、凍土のなかに閉じ込められていたウイルスや細菌が拡散するという問題もあります。

そうしたロシアに壊滅的な最終打撃として加わると予想されるのが、夏の干ばつによる小麦の生産量減少です。ソ連時代の飢饉の記憶が蘇るところです。

実際、昨年の主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、プーチンは、「ロシアは砂漠化、土壌侵食、永久凍土融解といった複合的脅威に直面している」と危機感をあらわにしています。

このとき、例えば中国にしても脱炭素化に対応できる技術力を身につけています、電気自動車では世界のトップにいるのですが、一方、ロシアにはそのような技術開発を進める力はなく旧来の原子力を使うしかないのです。

ここでウクライナは「ヨーロッパの穀倉地帯」と呼ばれ、ロシアと並ぶ小麦の輸出大国、トウモロコシは中国もウクライナから輸入しています。

原発が16基もある原発大国でもあります。

さらに、ウクライナはIT産業に必要なレアアース他の豊かな産出国でもあります

かつソ連時代から宇宙分野や核開発の拠点だったのでウクライナは「東欧のシリコンバレー」IT技術者も多くグーグルなどの海外企業からも多くの発注を受けています。

つまり食糧、IT資源、IT技術、原発という4つの領域で、ウクライナは、グローバル化に乗り遅れ、最も厳しく気候危機に直面させられたロシアにとって欲しくてたまらない土地なのです。日本が満蒙を生命線と呼んだ過去をなぞるなら「ウクライナはロシアの生命線」だとプーチンは言うでしょう。

そしてまだ天然ガスや石油輸出が武器として使える今しか侵略のチャンスはないと見えたに違いありません。

まとめると今回のロシア侵略は新たな「気候」戦争としてもとらえる必要があり、また、ロシアに対する欧米の対応も、気候危機のもとでの覇権をめぐる帝国間の争いとしてとらえなおさねばならないのです。

この種類の資源戦争は今後、アフリカや南米を舞台にして起こり続けると考えなければならないでしょう。

気候危機の中の帝国主義戦争の時代、第3次世界対戦のなかに私達は今突入しているのかもしれません。

最近の気候変動に関する政府間パネルIPCCの報告書の最後の一節にはこう書いてあります。

「居住可能で、持続可能な未来をあらゆる人々に確保する『機会の窓』は、急速に閉じつつある。(気候危機への)適応と(気温上昇の)緩和に向けて、先を見据えた世界的な協調行動が、これ以上少しでも遅れるならば、このわずかな機会を失うことになるだろう」

以上やや立ち入って斎藤さんの文章を自分なりにご紹介しました。全文も添付していますのでぜひお読みください。

しかし、ここで私達の医療生協運動の最も欠けているところとして、気候危機に立ち向かう地域づくりについて、具体的な方法論を見つけきれていないということは強調しておきたいと思います。

食糧、エネルギー、ケア(医療・介護・福祉・教育)を自給する循環経済だと目指すところは見えていますが、最初の一歩はなにかというところがはっきりしないのです。

その一つの案として「(地域福祉)戦略部」の設置とそれによって「エネルギー・食糧・医療福祉を自給する地域循環経済をめざし、医療福祉を担う立場から地域や行政への働きかけを強化」するということを総会方針案の中に書き込んでいます。ご討議いただければ幸甚です。

(議長指名)

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