2022.1・29 医療生協健文会理事会あいさつ
昨年12月17日大阪市で起こった労働者のメンタル・ケアに取り組むクリニックへの放火で40歳台の医師や職員、患者が25人もが死亡した事件については前回の理事会で取り上げましたが、今年になっても、つい昨日の1月28日に埼玉県ふじみ野市でやはり40歳代の医師が患者家族から猟銃で殺害されるという事件がおこりました。他に医療職員2人も負傷しているようです。
死亡した医師は大阪のケースと同様に、非常に積極的に地域医療に関わり、往診専門のクリニックを立ち上げてふじみ野市の在宅医療をほぼ一人で担っていたような人であったらしく、こういう事件の頻発をどう考えればいいかと思い悩みます。
さて、新型コロナ オミクロン株が驚異的な流行を見せており、山口県でも病床利用率が50%を超える医療危機に一気に突入しました。宇部市の救急医療の柱と言える宇部興産中央病院内での感染発生により同院の救急受け入れがストップしているのも現場にとっては脅威になっています。
さらに自宅療養者をどう支えるかが急速に大きな問題になろうとしています。これについて地域全体が状況の急展開に追いついていない状態であり対策が急務となっています。
ごく最近の宇部協立病院のかかりつけの患者さんの事例です。
介護保険サービスの利用状況から見て明らかにコロナ感染して高熱を発している状態で救急車を依頼しましたが、コロナの疑いが強ければ搬送先はないという理由で救急車が帰ってしまい、ではどうすればいいのかという相談が外来主治医の私にありました。
宇部協立病院への入院も不可能なのでやむを得ずS医師に緊急往診してもらい抗原検査で確定診断しました。しかし診断が確定しても当日はやはり感染症病棟に入院もできず、こちらも準備がなかったので新型コロナ用の経口薬「ラゲブリオ」も渡せず、解熱剤を渡す以外は何もできず、翌日に保健所が入院先を決めてくれるのを期待して待つほかはありませんでした。
また防府市に住む職員の報告では、高齢の家族が発症、入院後肺炎に至ったが、ご本人が退院を強く希望して、家族も受け入れを決断した、ただしそのときは在宅酸素療法が必要だとなった、しかし、こういうちょっと複雑なケースでなくても、コロナ患者の自宅に往診してくれる医師がそもそもその地域ではゼロだったため、困り果てたということがありました。
入院医療が逼迫する中で、自宅療養者の直接的な医療・介護支援は、病院、診療所、介護事業所問わず、全体共通の大きな課題となっています。
今後しばらくこれを一つの大災害事態と考え、それにふさわしい体制と決意で乗り切っていきたいと考えます。改めて全職員と組合員の皆様の奮闘とご協力を切に訴えるものです。
次に、冒頭、医師や医療従事者に向かう暴力のことをお話しましたが、やはり背景は日本社会の貧困と孤独の極端な進行にあるように思います。大阪のケースは生活保護申請の不調があったと伝えられていますし、埼玉のケースも最近多発している巻き込み型の自殺未遂だったようです。埼玉の事件も頻発している巻き込み型自殺未遂だった可能性があります。
11月に「地域福祉室」をスタートさせて2ヶ月が経過しましたが、そこで見えてきたのはこの地域のすさまじい貧困と孤独です。貧困と孤独はそれという形で目には見えるものではありませんが、地域のあらゆるところに潜んでおり、アンテナを挙げればこれでもかこれでもかという形で可視化されてくる、そういう情勢だという気がしています。
ちょうど今、フジグラン宇部店前で、山口県知事候補千葉まりさんへの応援演説として、地域福祉室の経験を室長が語っている最中のはずです。
いま、全日本民医連で今後2年間の方針の討議が始まりましたが、私としては「ソーシャル・ワークと、共同組織つまり医療生協組合員の互助活動による『住民の生活への徹底的支援』を土台にする形で私達の医療・介護活動を全面的に組み立て直す」ということを主張しようと思っています。10数年前に『「SDH」つまり「健康の社会的決定要因」への気づきを医療介護活動の基礎にしよう』と訴え始めて、当分はあまり理解されなかった、しかし今ではそれが常識になったという経験もありますから、また同じような思いをしても、なんとしても理解してもらおうという気でいます。なお仲間を募って全日本民医連で作らせてもらったSDHブックレットは実に4万2千部普及したそうです。自分で言うのもなんですが、快挙ですね。
さて、最後に、だからどうしてくれというのではありませんが、この逼迫した医療情勢のなかで職員全体、特に高齢医師の疲弊は尋常でないものがあります。私達の法人においては、他の病院の同じくらいの高齢医師よりはるかに厳しい労働が課せられていると思います。もちろん職員全体もそうです。これはコロナより緩やかに見えますが、より長期に渡って私達が直面している危機なのですね。
医療生協組合員の共感と激励なしにこの非常事態を乗り切るということはないと思われますので、だから直接的にどうしてくれというのではありませんが、ぜひその認識を皆様の心のなかにとどめていただくことをお願いしたいと思います。
それを申し上げて私の今月の挨拶といたします。(議長指名)
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