佐々木隆治さんから紹介されたものだが、この文章は斉藤幸平さんの主張に正面から向かい合って、グリーン成長(政府内左派)、グリーン・ニューディール(資本主義内左派)、脱成長(私達)の類似点と違いを丁寧に解説している。必読。今後、江守正多という人にも注目して置かなければならない。
https://news.yahoo.co.jp/byline/emoriseita/20211025-00264730?fbclid=IwAR0Pxj5Q7zX52NEmFmEfrl4_LBIlG51tV6KGKoAvEiqDGOIf7Fy2dQJHNK8
『日本の経済戦略は「グリーン成長」路線に大きく舵を切ったように見える。2020年12月に経済産業省が策定したのは,その名もずばり「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」である.』
『D’Alessandro et al.(2020)の結果によれば,グリーン成長ケースでは温室効果ガス排出量は削減できるが,格差と失業は悪化する.GNDケースでは同様な排出削減を達成した上で格差と失業も改善するが,政府の債務が増加する.脱成長ケースでは他の2つよりも排出削減と格差や失業の改善に大きく成功するが,政府の債務はさらに増加する.この結果を見るかぎり,グリーン成長が社会問題の側面において抱える弱点が確認されたと同時に,脱成長が資金調達において抱える課題が指摘されたといえる。』
『脱成長への移行を促すためにはトップダウンの政策を提案するだけではなく,ボトムアップの社会運動が重要であることを強調する(Kallis et al., 2018).その上で,脱成長を促す政策提案として挙げられるものは,無償の公共サービス(ユニバーサル・ベーシックサービス),所得上限の規制,労働時間短縮,企業経営の民主化などである(Keyßer and Lenzen, 2021).』
『脱成長をたとえばGNDと同列な,一国内で構想可能な「政策パッケージ」の一つと見なすのは適切でないように思える.GNDは現状の資本主義システムの下で提案可能だが,脱成長は資本主義システムを世界規模で大きく書き換えるプロジェクトである点でGNDと質的に異なるのだろう(Mastini et al., 2021)』
『「脱成長」(degrowthまたはpost-growth)は,エネルギーと資源の利用(throughput)を計画的に減少させつつ,社会の不平等を是正し幸福(well-being)を向上させることは可能であるという仮説の下,そのような社会経済システムへの移行の実現を唱道する理論ならびに社会運動である(Kallis et al., 2018; Hickel, 2020).成長を止めることにより社会の幸福をむしろ改善しようとする新しい社会経済のビジョンにその特徴がある.
脱成長の仮説を前提とすれば,世界総計でGDP成長の無い将来シナリオを描くことができる(この際,現在の高所得国のGDPは減少し,低所得国のGDPは増加することが想定されている).この条件下であれば,既存シナリオの懸念点である,GDPとエネルギーの急激なデカップリング,再エネへの急激な移行,負の排出技術の大規模な利用のそれぞれへの依存度を緩和し,シナリオの社会-技術的な実現可能性を高めることができる(Keyßer and Lenzen, 2021).』
『脱成長はうまく実現するならば魅力的なビジョンだが,実現するとしても時間がかかりそうだ.仮に30年かかるとしたら,2050年までの脱炭素化には間に合わない.その場合でも,移行期において部分的に実現する脱成長的な「要素」がグリーン成長の課題を緩和するのに貢献するかもしれないし,あるいは思わぬ形でもっと早くパラダイムシフトがやってくるのかもしれない.』
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