マイケル・マーモット「the Health Gap」序章(4)
僕が臨床を離れたのは病気や健康の不平等の原因は医師の仕事に関係が深いとは思わなかったからである。僕らは社会を改善するべきだった。
だから、2010年から11年のイギリス医師会長になるよう招請されたのは、口で言えないくらい驚いた。人違いだと思ったね。
任命されると演説しなければならなかった。聴衆にはたくさんの医師がいるんだし幾つか有益なアドバイスを取り上げなきゃと考えた。この本に書いてある仕事をする一方で、僕は三つの医学的コンディションを発達させたと医師たちに話した。それはおそらく役に立つんじゃないかな。
第一はオプティミズムだ。僕はいつだって根拠なく楽観的に感じている。すべての不運予言者、つまり全てはだめになったと主張する人々の存在にもかかわらず、エビデンスは物事は良くなりうることを示していると僕は決め込んでいる。このコンディションのために幾らか錠剤が必要だ。
第二は、一に関連するが、選択的な聴力障害を発達させたこと。僕は 皮肉は聞かない。もし人々が誰もものごとをこれまでとは違ったふうにはしないというなら、なにも起こらないだろうし、人々が変わることはない、などなど、それは跳ね回る。僕はもはやそれを聞かない。僕はリアリスティック イエス、シニカル ノーだ。
第三は目の湿っぽさを発達させたこと。
僕らはバンクーバーでCSDHの会議を開いた。その終わりにパスコウル・モクンビ、モザンビークの前首相でCSDHのメンバーだけど、彼がこう言ったんだ「私の国が独立して以来こんなに力づけられたと感じたことはありませんでした。」
僕の目の湿っぽさはぐんぐん増した。
インドのグジャラートで、自営女性協会Self Employed Women's Assosiationがそのメンバーといかに働いてるかを見た。そのメンバーとは、インドで最も貧しく、最も隅っこに追いやられた女性たちなのだ。逆境を乗り越えて勝利しようと働いていた。僕は僕の目が濡れてしまったのが分かった。
リオのスラムで若い人たちが自尊心を育てているのを見たとき、あるいはニュージーランドでマオリ族の人々が自らの尊厳を発見しようとしているのを見たときも僕の目は濡れた。
人々が 苦しんでいるのを見るときだけでなく、それ以上に困難を超えて勝利しようとしているのを見たとき、この目の湿っぽさはやってくる。
この本を書いた僕の目的は僕らが人々の生活を改善するためにできることのエビデンスを君に知らせることだ。その人々が世界で最も貧しい人々だろうと比較的楽であろうと同じだ。
僕らがチリのサンチャゴでCSDHを発進させた時、僕はチリの詩人パブロ・ネルーダを引用した。
もう一回そうしよう、そして君に一緒にやろうと呼びかけよう。
「悲惨を生み出すものと戦うために立ち上がろう」
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以上が、ざっとした内容だが
以下が僕の感想。
「4/11
午後外来が終わり、久しぶりに最上階の療養病棟に回診に出かけるまでの短い時間にマイケル・マーモットとアマルティア・センという大スター間の冗談めいたやり取りを訳していると、世界の隅っこでそんなことに喜びを感じている自分がかわいそうになってきた。こんなことが何になるわけでもないのにねぇ。
寝たきりだけど、視線を合わせながら呼びかけると目を開けて笑う人たちを一渡り回って帰ってくるとくだらない自己憐憫はいつのまにか消えているが・・・。」
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