再読の楽しみ「大江健三郎 自選短編」
再読の楽しみ。「大江健三郎 自選短編」岩波文庫2014。
昨夜は「河馬に噛まれる」(初出1983)「『河馬の勇士』と愛らしいラベオ」(初出1984)を読んだ。
いずれも当時の文芸雑誌で読んだことがあるものだが、今読むと発見がたくさんある。
1983年ごろ僕はまだ動物行動学者コンラート・ローレンツの「ソロモンの指輪」を読んでいなかったので、すでに1970年ごろノーベル賞をもらっていたその名前を意識することはなかった。しかし、「河馬に噛まれる」のなかで大江はローレンツのナチス入党、協力の問題を取り上げていた。
動物の生得的な行動の高度さ、そののちチョムスキーの生成文法のアイデアにも結びつく興味が尽きないテーマを展開したこの学者も、ナチスの時代に生きた貴族だったということを改めて思わされた記述だった。ドイツの知識人がナチスとの関係を問われるのは宿命のようなものである。それは日本でも変わりがない。
「『河馬の勇士』と愛らしいラベオ」については、登場人物である連合赤軍事件における被殺害者である女性のモデル探しをしてしまった。
後に日記が公刊された大槻節子のように思えたが、大江がこのおぞましい事件にずっと関わろうとし続けたことに不気味さを感じた。それに興味を感じる自分にもなにか気味の悪いところがある。
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