宮澤由美「社会とともに歩む 認知症の本」新日本出版社2015/9、 渡辺さちこ他「日本医療クライシス」幻冬舎メディアコンサルティング215/6
同じサイズ、同じくらいの厚さの2冊の本を平行して読み終わった。
宮澤由美「社会とともに歩む 認知症の本」新日本出版社2015/9、
渡辺さちこ他「日本医療クライシス」幻冬舎メディアコンサルティング215/6。
どちらも著者は女性だが、前者は現役の民医連のリハビリ専門医師、後者は看護師としての経験を経た後で慶応大学経済学部を卒業した医療経営コンサルタントで、内容は対照的である。
「認知症の本」の前半は市民向けの認知症療養の解説に当てられている。98ページ 「(話の主人公が)『退院調整コーディネーター」という名刺を持った貫禄十分な中年女性に呼ばれることとなります」のくだり、この人が1964年に生まれたという情報も書き込んであり、どこかユーモラスである。自画像だろうか。
後半は鋭い政策批判である。2012年から始まったオレンジプランという5ヵ年計画が、安倍首相の介入で途中の2015年に新オレンジプランとして国家戦略に変わってしまうあたりの右往左往がよく分かる。
地域包括ケア研究会が2013年発表した地域包括ケアの「植木鉢モデル」が、2014年の高齢者医療・介護総合確保法と照らし合わせてみると、本質は介護保険縮小のなかでの在宅孤独死の強制、在宅関連サービスの商品化にあったことが丁寧に説明されている。
かつ、要支援の人を介護保険サービスからはずせば認知症の早期発見、早期援助というオレンジプランにも反するのである。
終わりのオランダとイギリスの認知症対策の紹介も参考になる。
「医療クライシス」のほうはまったく政府よりの本だが、いまさら聞けないDPCデータの見方などについて丁寧に書いてあるので、医療経済雑誌を読んで分からなかったことが理解できるようになるなど、便利なところがある。
巻末には、全国の有名病院の戦略などが簡潔にまとめられている。私が日本海総合病院を野心的な民間病院だと思い込んでいた誤解なども正される。
「アウトカム」と合併症が同義語のように用いられているのは、若干違和感あり。
細かいことを言えば、宮澤先生の本の最終ページに出てくる林さんは、正しくは林泰則さん。
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