雑誌「世界」9月号①蟻川恒正「『個人の尊厳』と9条」 ②最上敏樹「国際法は錦の御旗ではない」
雑誌「世界」9月号で印象に残った話(恣意的引用)
①蟻川恒正「『個人の尊厳』と9条」
お盆のTVで見直した映画 山本薩男監督「戦争と人間」完結編のなかでも、山本圭扮するマルクス主義者が懲罰的に招集され、初年兵の訓練と称して杭に縛り付けられた捕虜を銃剣で突き殺すことを強要される話が出てくる。結局は突くことができないで凄惨なリンチを受ける結果となる。
その原型というべき経験をクリスチャン渡部良三が戦後も晩く短歌集として刊行した(歌集「小さな抵抗」)ということである。
「鳴りとよむ大いなるものの声きこゆ
『虐殺こばめ生命を賭けよ』」
彼は捕虜を突き殺すことを拒否し昼夜となく続くリンチを受ける。
それにもかかわらず、彼はその後ある反省に至る。
「すべもなきわれの弱さよ 主の教え
並みいる戦友に説かずたちいつ」
著者はこれについて別の法学者が書いたことを引用している。
「良心的兵役拒否者が、自分と同じ国民が敵国兵を殺すという状態を漫然と眺めつつ自己の良心が傷つかないことに満足していればよいというのも奇妙な話である。
彼が真に自己の個人としての尊厳を確保しようとするなら、他の国民も殺人者にならないような手立てを講じるべきである。 良心的兵役拒否者の個人の尊厳は、反戦活動を伴うことによって成り立つので、それ自体では完結しないものである。
しかし国家としては、良心的兵役拒否までは許容しても、それと対になるものとして反戦活動を許容することは、理論的には可能でも、実際は困難である。 となると、国家としても戦争放棄するしか合理的な解決はないことになる」
②最上敏樹「国際法は錦の御旗ではない」
国連国際法委員会は2001年に、加盟国が勝手に行使する「自衛」そのものが「権利」ではなく、本来は違法な武力行使として禁止されるべきものだが、現状ではやむなくその違法性を黙認しているものという規定を行なった。
世界の潮流として、個別の自衛権さえしだいに権利ではなく、基本的に違法だとされるなかで、集団的な自衛権が今後広く認められていくはずはないのである。
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