愚行の権利
○僕の診察室の入り口には「戦争ダメ」と大書した紙が貼ってある。
なかなかインパクトがあると思っているが、今日は「諸行無常」と書いた紙を作って重ねて貼っておいた。
いつもと違って格別やる気の出なかった外来で、長い長い訴えを聞いた後、「まぁ、諸行無常と思ってお迎えが来たら従容として受け止めたらどうですか」と言い放ち、何となく、自分が作って来たもの全てを壊したいという気になって、その紙を作った。
...その患者さんは何も思わなかったようで 「じゃ、いつもの点滴おねがいします」と言って、その点滴は不要だという僕の声も聞かず出て行ったのだが・・・。
一日貼っておいたが、誰も何も言わないので、夕方元にもどしておいた。
○自分で救急車に同乗して大学病院に搬送した同僚は大学1年以来の同級生で、今の僕が一番信頼している医師だった。
救急車の中で彼は数ヶ月前から予兆があったから、そのとき検査を受けておけばよかったと言った。
「そうだよ、そうすれば、俺が君と一緒にこんな風に救急車に乗る必要もなかった」と答えると「ああ、そうだ」と返事した。
もちろん僕の診断と初療が卓抜だったので(笑)、彼が生還してまた一緒に働けることは間違いない。しかし、人生がぶっつり中断されるという事態へのフラッシュバックがそれ以来ここ数日続いているのも確かである。
昼間に「諸行無常」と診察室の入り口に書いてやろうと思ったのも、別に入院患者が急に2倍になって30人に達し疲労困憊したから理性を失ったというわけではない。実は、その程度の仕事量は僕にとってなんでもない。
ただ、そういう愚行以外に自分を救うものがないような気がしたからである。その理由はいまのところ誰にも分かるものではないと思う。
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