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2015年8月22日 (土)

今日の挨拶

こんにちは。
全日本民医連副会長の野田と申します。いつもは山口の宇部協立病院にいる内科医です。
役員中最高齢であまり先がない身なので、少しだけ自由にあいさつさせていただきます。

みなさん、厳しい残暑の中、全国からの参加ご苦労様です。

○41期も残すところあと半年となりました。戦争法案の廃案実現に全力を挙げると同時に、42期に向けて、より長期的に民医連運動の展望をしっかり見つめなおして行くことが重要になっています。

○詳しい議論はこれから行うわけですが、たとえば各県で地域医療構想策定が進んでいることにも注目しなければなりません。今国会で審議中の医療法改正案の中にある「地域医療連携推進法人」制度が施行されてしまうと、どんなことが起こるか予測しておく必要はあります。
新専門医制度との関係で見ると、息を吹き返した大学が、二次医療権ごとに系列の大病院に地域医療推進法人を次々と作らせ、そのピラミッドに民医連も飲み込んでしまおうとする事態が想定されます。

政府側の地域包括ケア政策のなかで、垂直統合、水平統合、規範的統合と縦横斜め、がんじがらめの上からの強権的「統合」が呼号されるなかで、それに抑え込まれてしまわないためには、私達自身の手で住民と共に地域の医療・介護の総合的な政策や総合的な実践を人権に根ざして作りあげることが極めて重要になって来ます。

最近、地元の国立大学の学長 ―医学部出身なのですが― と懇談してみました。
昨年9人までに落ち込んだ初期研修マッチングが、今年は新専門医制度の影響もあって、40以上に回復したことで強気になっており、大学病院で一度潰れた総合診療部を再建する気などまったくないということも断言していました。やはり以上に述べた危機は迫っていると実感します。

(一方、中国四国地協第一の大病院である、松江生協病院では交流のある開業医さんと総合診療的なオープンカンファレンスを日常的に開いているという話を聞きました。

宇部協立病院のような中小病院でこれを開くとすれば、大病院、開業医さんの双方向への働きかけになるので、地域医療の底上げの意味ではより大きな効果がありそうですし、それより何より、知識を増やし場数を踏んでそういうカンファレンスを主催できる力こそが医師の総合性の核ではないかとも気づきました。ここを頑張ることで対抗できると思います。)

⚪️同時に、民医連の地力自体も相当脆弱になっていることが心配です。こちらも本気で立て直さないとごく近い未来が本当に危ないと思います。

直接にそれにつながる話かどうかはわからないのですが、少しお話ししてみようかと思うことがあります。

このお盆に私が何時ものように休暇を取るでもなく病院で仕事をしていると、大学入学のときから同い年の同級生で、今は私の病院の主力になっている医師から
「こんな時に悪いけど診察してくれないか」という電話がかかってきました。

その1時間後には、ぐったりしている彼救急車で大学病院に搬送していたのですが、救急車に一緒に乗っている間、彼が私たちの病院に来たときのことをどうしても思い出さないではいられませんでした。

その医師は宇部協立病院に来る前は大学の麻酔科の助教授を長く勤めていて、ICUの主任もしていたのですが、ICUで金に糸目をつけないほど医療資源をつぎ込んで救命し、その後どうにか地域の病院に移すことのできた患者が、さらに数年後に地域でどうしているかを追跡するという研究をしました。

すると、生存していたのはごく少数でしたが、生存している人の全部が宇部協立病院に移した患者であり、その中の一人は自宅復帰までしていたことを彼は発見しました。
患者を受け取る僕らにはまったくわからない、見えない話ですが、事実はそうでした。
そこでついに、彼は大学を退職して6ヶ月間宇部協立病院で研修することを希望したというのが、あまりに変わった話だと思います。

(彼もその気持ちを長く温めていたようで、その話が出たのは宇部市の医師会員と山口大学の医師が年に一回酒を飲んで交流する「タウンとガウンの会」で、卒業後初めて会った時に急にもち出されたので、私はびっくりしました。)

そのとき私は宇部協立病院の院長をしていて、すぐにきわめて安い給料の特別研修医という名目で彼を雇ったのですが、その6ヶ月のうちに、常勤医になることを決めてくれました。そこで突然研修医から副院長にし、その後は手術の麻酔もしながら、在宅医療を専門にして、15年経ったいまでは、在宅でのターミナルケアや緩和ケアの分野で山口県全体の指導者になるに至りました。

なお大学1年のときは、彼と私とは全然政治的意見が違い、教室の中で私はたった一人で彼の仲間に囲まれて殴られるという目にも遭っているのですが、彼はそこにはいなかったと言っています。

このようにひょんな出会いから15年間も私がもっとも信頼する医師として活躍してくれたのですが、今年の夏、ついに一緒に救急車に乗る事態になったわけです。

もちろん、私の診断と初療がきわめて的確であったので(?)、もう少しすれば生きて帰ってもとのように仕事をしてくれるのは間違いがないのですが、問題は二人ともしっかり後継者を作ってこなかったので、こういう事態になるとたちまち病院の診療全体がうまくいかなくなることがはっきりしたことにあります。

(当面は30人くらいの入院患者の主治医を私が一人で引き受ければ済んでしまうのですが、ともかくお互い高齢医師二人によって支えられている病院がどんなに不安定なものか身にしみて分かりました。)

60歳代の医師に支えられている民医連の中小病院は、決して私のところだけではなく、全体としてはむしろ多数派かと思います。

そこで、特に経営幹部の皆さんに言いたいのですが、60歳前後の医師がまだ働けるから当分はうちは大丈夫だというのは幻想か妄想です。

彼らはあす心筋梗塞になるか、大動脈解離を起こすか、もちろん脳出血するかもしれないのです。

この脆弱性を大急ぎで解決しないことには、どんな政策能力も実践も無意味だということになりかねないと思います。

もちろんこんなことは評議員会方針案には書かれていないことですが、裏のメインテーマとして、今回ぜひ考えていただきたいと思います。

○私の言いたいことは、実はそれだけなのですが、これで終わると、そういう奇妙な挨拶があってよいのかという声が挙がると思いますので、次に情勢に関連して、ぜひ読んでいただきたい雑誌と書籍を紹介して冒頭挨拶の任を果たしたいと思います。

○雑誌「世界」9月号で早稲田大学の最上敏樹さんが「国際法は錦の御旗ではない」と題して以下のようなことを言っています。

― 2001年に国連の国際法委員会は、加盟国が勝手に行使する「自衛」そのものが「権利」ではなく、本来は違法な武力行使として禁止されるべきものだが、現状ではやむなくその違法性を黙認しているものだという規定を行なった。

世界の潮流として、個別の自衛権さえしだいに権利ではなく、基本的に違法だとされるなかで、集団的な自衛権が今後広く認められていくはずはないのである。 ―

個別の国家の自衛権さえ実は違法で禁止されるべきものだということが改めて衝撃的でした。これをよく考えると、日本国憲法9条2項こそが、国連がとっている真の立場だ、ということなり、そのことに私たちは深い確信を持つべきだと思います。

(国連やWHOと民医連綱領を混同するなと長野の先生たちにまたまた言われそうですが、これはきっと賛成してくれるでしょう。)

○次は雑誌「季論21」2015年夏号 に渡辺 治さんが書いていることです。

― 戦争法案に反対する立場は二つある。
一つは安保条約反対、自衛隊違憲、新自由主義経済路線反対を統一して追求するという立場。これは私たちです。

もう一つは、自民党のなかに戦後受け継がれてきた「軍事小国主義」を守り、自衛隊の海外武力行使、1960年安保からの逸脱を許さないという立場・・・ 元 防衛官僚の柳沢協二さんや翁長たけし沖縄県知事もこの立場です。

そして今日、重要なのはこれら二つの立場が相互の違いを認識しながらも合流して、まずは何よりも軍事大国化という安倍政権の妄執を粉砕することである、渡辺さんは言っています。

○渡辺 治さんはそう言っているのですが、その二つの立場は結局高齢者の世界の話に過ぎないので、私としては、これを超えて、最近の青年層の運動の高揚の背景を、ただ喜ぶだけでなく、分析的に考えることも重要だと思います。

それにふさわしい書籍としてデヴィッド・グレーバーという人が書き、木下ちがやという人が訳した
『デモクラシー・プロジェクト(―オキュパイ運動・直接民主主義・集合的想像力)』(航思社、2015年)という本をお勧めします。
訳した木下ちがやさんは、渡辺 治さんの弟子に当たる優秀な社会学研究者です。40歳過ぎていますが、まだ立川相互病院で夜間当直のバイトをしているそうです。
シールズを影で守っている大人の防衛隊のリーダーでもあります。

 それが関係するのかどうかははっきりしませんが、この本を読むと、2011年のアメリカのウォール街占拠(OWS)、その後のギリシャの「シリザ」政権成立、スペインの左翼政党「ポデモス」の進出などの動きと一連のものとして、2015年の日本のシールズなどの青年の活動の高揚が起こっていることが見えて来ます。高齢者からなる民医連がそれとどう付き合うかという方法のヒントもつかめます。ぜひご一読いただきたいと思います。

では、実質1日の短い討議期間ですが、ぜひ熱心で実のある討議がなされることをお願いして、私の開会の挨拶といたします。
ご清聴ありがとうございました。

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