デヴィッド・ハーヴェイとカズオ・イシグロ
苦労して文字を追っているデヴィッド・ハーヴェイの「コスモポリタニズム」作品社も残りあと僅かになった。同じ著者6冊目の本である。これを読み終わると、もう丸善の店頭などには未読の彼の本はなくなるのですこし寂しい感じがする。
そこで、昨日読んだ、つい昨日まで平和に隣り合って暮らしていた人々が突然武器を持って闘い始めるのは関係的地理の記憶の蘇りによるのだ、という彼の記述について。
地理には、
①現状の国別に色を塗った地図のような絶対的地理、
②歴史を反映した、例えば歴代中国王朝版図のような相対的地理、
③現在の支配ー被支配関係や資本の流れを示した関係的地理があると言うのがハーヴェイの主張である。
鶴見良行「バナナと日本人」岩波新書1982などもそういう関係的地理の書物だといえよう。
そして上記のような隣人同士の争いは③の地理が鋭く意識に上ってきたときに起こる。
これは、カズオ・イシグロの新作小説「忘れられた巨人」の主題そのものではないか。 忘れられた巨人とは関係的地理のことである。
カズオ・イシグロがデヴィッド・ハーヴェイを読んでいるかどうか、文芸評論家に調べてほしい気がする。 それはともかく、だとすれば全ての平和は関係的地理に熟知することの上に築かれるのである。
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