雑誌「季論21」2015夏号 清水 寛「戦傷精神障害兵員の戦中・戦後」
雑誌「季論21」2015夏号から
清水 寛「戦傷精神障害兵員の戦中・戦後」が、僕にとっては印象的だった。
これはその筋では常識のことなのだろうが、千葉県市川市にあった国府台陸軍病院(現国立精神病センター国府台病院)というのは、全陸軍の戦争精神病を専門とする大病院だった。
戦時中に8年間、戦後も1年余りその病院の勤務医だった浅井利勇という人が、その晩年、病院のカルテ8千人分を複写して自費出版した。
さらにそれをもとに埼玉大の細渕さんと清水さんという教員が検討を深めて、細渕さんは現在なら戦場での加害行為他の体験によるPTSDとされる人が多数いることを指摘した。事例として幼児を殺したことを思い出して悪夢や不眠が続いている31歳の兵士が挙げられている。
清水さんは知的障害兵士を検討し、国府台病院だけでなく、その他の陸軍軍医の活動も聞き取りをしている。そのうちの一人は民医連の大先輩の津川武一である。津川は東北で知的障害兵士を川やりんご畑に連れだしユニークな作業療法をしたようだ。
調査は患者となった元兵士たちの戦後の療養に及んでいく。兵士たちのなかには韓国出身の人たちも相当数含まれている。
この人たちはまもなく全員が死亡してこの世からいなくなるだろうが、彼らを忘却することこそ、より残酷な繰り返しを生むことに他ならない、と清水さんは言っている。
*僕もまだ30歳代の医師だったころ、ある高齢の入院患者から「誰にも言ったことがないが、実はフィリピンで何百人と殺した子どもの顔が夜毎現れるので眠れない」と打ち明けられて困惑したことを思い出した。
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