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2015年5月23日 (土)

加藤周一・樋口陽一対談「時代を読む」岩波現代文庫2014/5と」デヴィッド・ハーヴェイの「コスモポリタニズム」作品社2013年、

ケーブルTVで見るチャンネルのなかで、「ナショナル・ジオグラフィ」は割りと好きなほうだが、その多くの番組は相当に馬鹿らしいものだ。

世界中の川の怪魚を追い続けるものとか。素手で爬虫類に挑み続けるとか。

その馬鹿らしさを気に入っているのだが、ときに、この程度のものを「ナショナル・ジオグラフィ 全国民のための地理学」などと呼んでいいのか、と思ってしまう。

マルクス主義地理学者デヴィッド・ハーヴェイの「コスモポリタニズム」作品社2013年のプロローグを読んでいると、そこでは自分のその疑問がちゃんと問題視されていた。

アメリカの支配層の蓄積している地理学的知識は膨大だ。絶えず敵を監視し、遠隔操作で攻撃するためにはそれはなくてはならないからである。

いっぽう、アメリカの国民の大多数は他国について驚くほど無知で、その結果自分に対しても驚くほど無知になっている。

これは、アメリカの支配層が国民にアメリカの使命を「自由、民主主義、正義」を世界中に拡大することと教え込んでいるせいである。それが普遍的価値を持つなら、それを受け入れる他国の人々の個別性、すなわち他国の地理など知る必要もないということになる。

したがって、「ナショナル・ジオグラフィ」の目的は面白おかしさでいいのだ。このチャンネルのもう一つの目的は米軍の軍事能力の高さの宣伝で、国民を安心させたり、軍事ファンにしてしまうことだが。

しかし、アメリカの価値観は普遍的なものでなく、世界中の個別性、特殊性と衝突して変形して行かなければ、世界の平和の役にたつものにはたどり着けるはずがないことが、近代の歴史のすべての面から明らかである。

そこで、アメリカの国民には本当の地理学が必要だ。本当の地理学を学んだものをコスモポリタン(世界市民・・・カントの提案)といい、その必要性を認める立場をコスモポリタニズムというのだ、とハーヴェイさんは主張しているように思える。

そのとき、ハーヴェイさんが優れていると思うのは、アメリカが信じる普遍的価値を安易に「兇悪な素顔を隠す仮面」と決めつけるなと言っていることである。個別的、特殊なものとの衝突は、普遍化をめざすものがかならず遭遇する困難ではないかという問題を彼は提示しているわけだ。

それは加藤周一さんが、樋口陽一さんとの対談「時代を読む」岩波現代文庫2014/5において、日本の近代化の中でヨーロッパから入ってきたものはすべて彼らの帝国主義と外形上結びついているが、立ち入ってみると帝国主義的ではない普遍的なものを区別できると言っているのに通じる。

この視点から、彼は福澤諭吉の「脱亜入欧」は、当時は強権的な王政の国ばかりで反人民的だったアジアから、普遍的な価値を見出そうとしたヨーロッパをめざそう提案したもので、日本の知識人の大半はこれを読み誤ったという興味深いことも言っている。

コスモポリタニズムが日本の国民にも不必要なわけがない。とくに安倍君のようなものが首相をしている時代には格別それが大事になってくるというものである。

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