« 日本の詩人たちはあくまで私的であるために破綻を明瞭にしてしまった・・・論潮の会「論調 6号」2014/1 の金 時鐘対談を読みながら 3 | トップページ | 宿題は早いうちにやっておいた方がいいよ »

2015年3月 4日 (水)

ミカ・へスター編「病院倫理委員会と倫理コンサルテーション」勁草書房2009年第12章「病院医療における分配的正義」・・・「どんな場所にある不正義も、あらゆる場所の正義の脅威だ」

病院倫理委員会(HEC)の役割をミカ・へスター編「病院倫理委員会と倫理コンサルテーション」勁草書房2009年で学んでいるのだが、その中に意外で、かつ臨床倫理への視点を刷新してくれるような1章があったのでメモを作ることにした。

第12章「病院医療における分配的正義」である。

これから僕が思うのは、民医連内部で倫理委員会活動を盛んにすることだけを考えていてはだめだということである。
もっと普遍的な立場で、地域の世間一般の病院倫理委員会のあり方を考えて、それから自分の病院の問題に帰ってくるような思考方法が必要なのだ。

いうまでもなく、病院倫理委員会の業務は①院内臨床倫理指針の整備 ②職員教育 ③個別事例の相談への応答 の3点であるが、それを遂行するうえの前提となる世界観があり、その中では富の分配をめぐる正義も含まれているというのである。

抽象的な倫理学に閉じ込められて退屈な議論を延延と展開している感のある臨床倫理も、しっかりグローバルな政治経済の文脈の中に位置づけられる、という力強い主張である。
それがなければ、手練手管に長けた要求者が最大の資源を獲得するという「強者の論理」、権力者がその力をふるって自らの力を顕示する「クラテリズム」の場に医療も成り下がってしまう。とくに新自由主義が猛威を振るう中では、権力者側が価値観が社会に押し付けるのでその危険は大きい。

医療は協働の場であり、「医療共同体」とでも呼ぶべき領域である。①善行、②無危害、③自律尊重、④正義という倫理の原則(この4原則間に矛盾を生じた場合に医療倫理委員会が出動するのだが)もこの共同体であるということにうらづけられているし、特に医療資源の公平な分配に関する正義の原則が今日の情勢上重要になっている。こういう世界観をしっかり持ったうえで病院倫理委員会の3業務を遂行することが求められているのである。

正義に適った医療資源の分配という視点ではUSの病院は4類型に分類できる。

A:大学関連の教育病院(マサチューセッツ総合病院など)
B:民間の大病院
C:カウンティ病院のような公立病院
D:在郷軍人病院

CとDは非営利的だが、それぞれ特徴がある。

Cは貧困者用の病院であるが、多くの貧困者は悪化してERを受診することが大半なので、ERがプライマリケアの主要な場も兼ねている。そして、そこで働いているのは研修終了以前のレジデントが大半である。

Dは、戦場経験者のPTSDが大きな問題となるし、また兵士の多くは貧困層出身なのでCにも似てくる。

問題はAとBが営利的に傾斜するときである。そこはクラテリズムの極北となる。ここでは病院倫理委員会の監査機能、コンプライアンス管理機能がきわめて重要になる。営利主義的傾向に抵抗する砦にならなくてはならない。

それだけではなく、Cが削減される傾向ともその病院の倫理委員会は闘わなくてはならない。実際にカウンティ病院が貧困者医療の予算を失い、貧困層は早死にするかまったく治療を受けないかという選択肢しか残っていないということになっている。
また公立病院のERが貧困者のプライマリ・ケアの主戦場であることから、ここで公衆衛生的活動が大切だということも主張しなければならない。

倫理的決定は真空状態のなかに存在するものではない!。

慢性疾患が増悪してER・ICUに駆け込むということの8割は予防できる。それを実現するためには、地方の貧しい人の慢性疾患管理が刑務所のなかの治療プログラムに劣るというような現実を変えなくてはならない。(それには、SDH対策+経済格差是正が最重要だ)。この認識を広めることも病院倫理委員会の役割である。

開発途上国の悲惨な健康状態に対する援助は豊かな資力を持つAとBの病院の義務と言ってよい。

現場のニーズより医療資源が必ず不足しているという状態では、トリアージに似た資源分配の原則が必要である。
それは最大多数の最大幸福という功利主義とは一線を画す考え方が必要になる。
ロールズの「基本財」の考え方を採用した優先順位の表が作られるべきである。基本財、二次的財、贅沢という順にそれは分類されている。もっとも困難な人の救済が何より優先する。

まとめ
医療共同体は、協働という世界観を採択し、マーティン・ルーサー・キングの言葉「どんな場所にある不正義も、あらゆる場所の正義の脅威だ」にしたがって、国内・国外を問わずプライマリ・ケアの欠乏のため人が死亡するという不正義と闘わなくてはならない。その闘いの組織こそ病院倫理委員会の真の任務である。

|

« 日本の詩人たちはあくまで私的であるために破綻を明瞭にしてしまった・・・論潮の会「論調 6号」2014/1 の金 時鐘対談を読みながら 3 | トップページ | 宿題は早いうちにやっておいた方がいいよ »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ミカ・へスター編「病院倫理委員会と倫理コンサルテーション」勁草書房2009年第12章「病院医療における分配的正義」・・・「どんな場所にある不正義も、あらゆる場所の正義の脅威だ」:

« 日本の詩人たちはあくまで私的であるために破綻を明瞭にしてしまった・・・論潮の会「論調 6号」2014/1 の金 時鐘対談を読みながら 3 | トップページ | 宿題は早いうちにやっておいた方がいいよ »