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2015年2月10日 (火)

デヴィッド・ハーヴェイ「〈資本論〉入門」作品社2011年

ようやくデヴィッド・ハーヴェイ「〈資本論〉入門」作品社2011年
http://www.sakuhinsha.com/politics/23459.html
を読み終えた。

資本論第一巻を苦労して読み終えたが、細かいことは全部忘れてしまった、もう一度最初から読み直しても良いが、もっと現代に即して、諸研究の成果を踏まえたものを、言ってみれば「続 資本論 第一巻」のようなものを読みたいと思う人に最適である。

原資本論から踏み出していくエキサイティングな発見もたくさんある。

主なものは二つある。

一つは本源的蓄積=略奪的蓄積を、資本主義の始まりのときに限らず、資本主義時代を通して継続して存在するものとする立場である。

暴力的に賃金と労働力の不等価交換が強制されることによって実現する「略奪的蓄積」は、資本主義の勃興期を過ぎても資本主義中枢国の周辺に置かれた植民地で継続されてきた。それはローザ・ルクセンブルクが鋭く指摘していたものである。これが資本主義が維持された理由でもあったのである。
また現在の新自由主義は、資本主義中枢国の中に「過労死を覚悟で働かされる非正規不安定雇用労働者」を大量に生み出すことで略奪的蓄積を新規に始めたものである。ブラック企業とは略奪的蓄積をなす企業に他ならない。

この視点は、労働力と賃金が等価交換されている「正常な資本主義的蓄積」も労働者の人間的発達を奪う略奪的蓄積に他ならないことを示唆していく。かろうじて生存していけるだけの賃金と長時間労働でなく、さらに標準的な生命を保つに足るだけの賃金と適正な労働時間でなく、真に人間らしく発達していくために十分な賃金とより短い労働時間をめざして労働者階級が闘うのは正当な権利なのであり、今の世界に必要なのはそういう階級闘争である。

原資本論を大きく踏み出すもう一つは、史的唯物論の捉えなおしである。生産力と生産関係を土台とし、そのうえに上部構造が聳え立つという単純な図形的で機械的な理解を退け、土台ー上部構造ではなく、六つの要因がネットワークをなして社会経済構成体を作り出しているという考え方が提唱されている。

ある視点からはその中の一つが土台となるだろうが、別の視点からは別のものが土台となるように、複雑に絡み合って、社会構成体は共進化していくとされる。
その六つの要因とは「技術」、「自然との関係」「労働過程ないし生産過程」、「日常生活の生産と再生産」「社会的諸関係」、「精神的諸観念」である。ハーヴェイはこれを資本論の「機会と大工業」の章の脚注4から導き出している。

柄谷行人の交換関係土台論にも通じるものがありそうである。

そして、最後には第一巻の範疇を超えていくが、略奪的蓄積の継続の結果、商品購買者=消費者を失ってその体制維持にあえぐ資本主義システムが、最後に頼るのは金融の詐欺的活用による略奪の継続と、資本家自身による消費、すなわち戦争しかないことも示唆される。

読み終わると、これから、資本論をどう学ぼうかという気力が読者の中に自然に湧いてくる本である。

なお
http://davidharvey.org/reading-capital/ をみるとハーヴェイの英語による講義が視聴できる。

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