審良(あきら)静男・黒崎知博「新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症」 講談社ブルーバックス2014/12
数年前、県医師会の生涯教育講座で自然炎症・自己炎症症候群(autoinflammatory syndrome)とサイトカインストームの話を聞いた。
そのことが、僕の経験としての、発熱で入院してきた高齢者がサイトカイン過剰を伴って意外にも急激な増悪を来すことが多く、実際的には早期のステロイド投与を素早く決断する必要があるということと、どこかで関係があると思えていたので、その根拠がわかるのではないかという期待から読んでみることにした。
それが得られるというところまではいかなかったが、有益だった。
ゆっくり通読することで、いま分かっていることと分かっていないことが明確に区別できるように、読み方まで指定されているような用意周到さが面白い。
2章で書いたこのことは、素直な理解のためあえて膨らませないでおくので、7章までそのことを記憶しておいて下さい、と言った調子。こんな心配りがピシッと効いた上司の元で働けばどんなに息苦しいだろうかと思えるが、税別860円の安い本なのに、これまで不確かにしか知らなかったことをきちんと教えてもらったという満足感がある。
とくに10章の自然炎症の項で、結晶構造を取る物質が食細胞に取りこまれて起こるインターロイキン1βの過剰放出により自然炎症が始まっていく一連の疾患がまとめられているところが良い。
尿酸結晶と痛風、シリカ結晶と珪肺、βアミロイド結晶とアルツハイマー病、コレステロール結晶と動脈硬化、膵アミロイド線維結晶と2型糖尿病などがそれである。言ってみれば広義の自己炎症症候群である。
1対1対応の単純なものは最初の痛風だけだろうが、珪肺(じん肺)が持続的なサイトカイン過剰を伴う複雑な病気だと、自分自身の25年近い「じん肺」外来の経験で身を持って感じていたのが、サラッと簡単な表の中に位置付けられているのは何か爽快感があるものだった。
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