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2014年10月10日 (金)

「患者中心の医療」第3版 第6章「共通基盤を見つける」・・・患者がうつ病の自分を恥じて、勝手に薬を調整していることを知ったとき、共感だけでは開かなかった医師患者間の共通基盤へのドアが開いた

の事例が取り上げられたこと自体が「患者中心の医療」の進歩の証拠であると僕には思える。

【事例】

フェイは闘っていた。ある数日間は終わりそうにないほど長く感じられ、別の数日間は手の施しようなくあっという間に過ぎた。

フェイは7歳の息子コディをシングルマザーとして養うために闘っていた。

住む家と食卓に乗せる食べものを確保するために闘っていた。

彼女は田舎の生花宅配店のセールス主任としてのノルマを果たすために闘っていたーその収入がなくなれば破滅だった。

アドリア医師はこの28歳の患者フェイに親しみ以上のものを感じていた。彼女の何重もの闘いを知って深く共感していた。彼女にとって、ただ生きて行くというだけで、毎日が前進のための偉大な努力の連続だった。

しかし、なにか基本的なズレがあり、彼とフェイの間に共通基盤を見つけられないでいた。何種類もの抗うつ剤が処方されたが、どれも不満足な結果に終わった。眠気、体重増加、イライラである。薬物療法の観点からはアドリア医師はフェイに最善の治療を施しているとは言えなかった。悪い結果や副作用なしに、この圧倒的なうつ状態に適合する薬はありそうになかった。彼は治療を前進させる方法を見つけられないでいた。

しかし、それと同時に 、彼もまたフェイの生活の複雑な諸側面に働きかけようと闘っていた。彼女は大抵沈黙していたが、やつれた横顔にその複雑さは現れていた。

息子コディが診察室で見せる混乱は特に厄介なものだった。この小さな子の「過活動」は正式な診断として良いのか、それとも、母親の内面、外面双方の混乱の反映なのか。この疑問もアドリア医師の前に未解決のままぶら下がっていた。

ごく稀な場合に、フェイはコディの世話をする大変さを打ち明けた。子どもの行動がエスカレートするときどんなにもて余すものになるか。お互いがわめき合う対決の後、フェイは消耗し切って自分の親としての能力のなさに罪責感を感じて一人ぼっちだった。結果として、彼女は時々コディのしつけを放棄した。そんな対決が双方の怒りの爆発を引き起こすことを恐れていたからだ。

フェイは持続する倦怠感、決断力の低下、イライラを自分の親としての無能力によると嘆いていたーそれはすべて、うつ病の部分症状だったのだが。

もう少し検討して行くと、アドリア医師はフェイが服薬していることやうつ病とされることのスティグマを恥じていることに気づいた。フェイは自分は自分で守らなければならないと信じ、自分の無能力に焦り、自己嫌悪にも陥っていた。

フェイは時々医師に無断で薬を減らしたり増やしたりしていることを打ち明けた。この新しい情報こそがアドリア医師に患者との共通基盤を見つける新しいドアを開かせるものだった。

フェイの目標はうつ病の症状を減らすことと子どもの養育としつけをどうしたらいいかを理解することだった。アドリア医師はその目標をよく説明して、さらに、これまでは失敗し続けこれからも失敗するだろうと思えた抗うつ剤療法にもっと「従順に」なるようきっぱり彼女に話すことにした。

彼はフェイに一緒に問題に取り組もうと約束した。フェイは自分がうつ病と認めることから逃げていたことを自覚し、断続的な服薬は効果がないことも理解した。

定期的な服薬をし始めると、症状は改善し、フェイは正確な服薬を続け、我慢する気になった。

彼女はインターネットで子育ての自助グループについて読み、アドリア医師に、この街にも彼のお薦めの似たようなプログラムがあるかどうか質問した。

アドリア医師はフェイの提案に賛成してそのプログラムに紹介状を書いた。アドリア医師はフェイが日記づけを再開することに興味を示したとき、大きな声で感嘆して見せた。それは以前に彼女のたくさんの闘いを解決するのに役だつと彼女が気づいていたものだった。フェイはこのアイデアが良いものだということに同意した。

フェイは定期的に受診し、取り決めた計画のうえで自分がどう進歩しているか医師に見守ってもらうのが良いと提案した。

フェイの闘いはまだ終わっていない。しかし、二人とも信頼感をより強く感じるようになった。彼らは共通基盤に到達し、ともに前進することができるようになった。

(114ページー115ページ )

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