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2014年9月 6日 (土)

雑誌「現代思想」2014/9 特集「医者の世界」: 今日の医師論の混迷が見事に表現されていると逆説的に言うべきかもしれない

期待して手にとったが、モヤモヤする。

今日の医師論の混迷が見事に表現されていると逆説的に言うべきかもしれない。

中心になる記事は、京都の堀川病院を作った早川一光医師に対する立岩真也によるインタビュー、川崎幸病院を作った石井えいき医師に対する小松美彦によるインタビューであるが、両者とも民医連とは微妙な関係にある。

早川は、堀川病院が民医連から脱退した後もしばらく共産党の京都市会議員をしていたらしい。共産党を離党したが、今も京都革新懇の一員で、講演もしている。

石井は川崎の大地主の息子らしいが「ヴ・ナロード 人民のなかへ」とはどういうことか見てみようと、まず民医連に就職する。実際を見てみると、もう医者の運動ではなく、事務員の選挙運動の場になっていたという。(76頁)

ここを読んで、僕は家族が驚いて起き出すほどの声で笑ってしまった。

それは、石井が友人の元ブント議長である高橋良彦が病気になったので、川崎幸病院近くに住まわせて病院理事にしたことをとらえて「住民の病院運営参加の実現だ」と大言壮語しているのを読んで、近所迷惑になるほどの声で笑った(79頁)のと同じである。

これについて、京都民医連中央病院の倫理委員会の委員を5年くらいしていた立岩は、選挙活動も今はそれほどでもない、と割とリアルなことを言っている。

そういうさして重要でない面白い話は散見されるが、結局「で、それがどうした」ということである。

立岩が言うには、政治的な医師の対立は、せいぜい医学生を「医学連」に組織する程度のことで終わっていて大したことはない、医療現場では基本的に同じことを目指していて協力しあえる関係になっているということである。

こういう立岩らしいラフな結論も悪くはない。現在の情勢の元では一緒にやって行く仲間として間違いはないが、この部分は民医連の医師や職員がわざわざ買って読むほどのものではない。

むしろ、この号で読むべきは、137頁の中島 孝「難病の画期的治療法、HALーHN01の開発における哲学的展開」と164頁の津田敏秀「なぜ医者たちは公害事件を拡大・悪化させてきたのか」の方だろう。

中島の評論は、WHOの健康概念を変更しようという2011年のBMJ提案にもとづいて、QOLが、従来のように客観的治療効果で評価されるにとどまらず「生活に関するPRO(患者が主観的に報告するアウトカム)」という概念に整理されていく必然性を具体的に示している。

「BMJの新たな健康概念は『社会的、身体的、感情問題に直面したときに、適応し自ら管理する能力』と定義され、これに基づけば、治療とは患者を正常に戻すことではなく、患者が主体的に疾患や障がいに適応する過程を支援することを意味する」1431頁 野田一部改変。

これは、最近僕が、小児科と老年科の間に、「成人病科」でなく「就労支援科」という臨床科を作るべきだと考えたことにも一致する。

これに対して、岡山大学の青山門下の先鋭な論客である津田へのインタビューは、世俗的な部分も多い面白さに溢れている。医局講座制と官僚が結びつくことの不毛さを豊かな実例で示しながら、全共闘やその後継者としての徳洲会が、大学に医師が残る必要性を否定して「人間学としての医学」を破壊したことも指摘している。医局講座制・官僚制の複合体と、全共闘的反科学性が彼の二つの敵のようだが、これは民医連と矛盾するものではない。

最近の民医連におけるSDHに対する関心の高まりは、臨床と公衆衛生的視点を統一した新しい医師のタイプを生もうとしている気がする。これは、いくら青山英康の流れを汲む独断的変わり者と噂される津田氏も反対はしないと思うのだが。

森川すいめい「精神科医にとっての真摯さとは何か」(ハウジング ファーストという概念の紹介・・・ホームレスの人が入院した時、退院に当たって、住居=ハウジングを確保して生活保護をしんせいすることは私たちのところでは当然のことだが)、
川島孝一郎「統合された全体としての在宅医療」(ICF国際生活機能分類の個性的解釈)、
山口研一郎「現場的視点からとらえた『社会保障としての医療』の変質」
も普通に学ぶところがある。

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