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2014年5月29日 (木)

2014年5月 医療生協理事会挨拶

総代会を前に、今期最後から2番目の大詰めの理事会となりました。暑い中のご参加御苦労さまでございます。

集団的自衛権の行使容認に何が何でも舵を切りたい安倍首相の陳腐な説明が国会でなされていますが、マスコミはじめ大勢は批判的になってきました。世論調査でも、6割は反対です。マスコミの姿勢は、秘密保護法の時に似ています。日本を戦争の道に進ませたくないと考える平和志向の運動が、次第に「知る権利」は死守しなくてはならないと思うマスコミを取りこんで大きな反対運動になりましたが、「若者を戦死させてよいのか」「日本人がテロの標的になっていいのか」という問いはマスコミも捉えました。

平和を求める運動が世論を変えていく状況を私たちがつくりだしていることに確信を持って油断せず運動を大きくして行きたいと考えるものです。

しかし、状況は複雑です。個別の政策だけ見ると反対が多いのに、安倍内閣の支持率は高いままです。時事通信の調査では5割以上となっています。これはまだアベノミクスによる景気の改善が期待されているせいで、その実体である大型公共工事への無駄遣いは、民医連のいろんな病院や事業所のリニューアルや建設に暗い影響を与えているほどです。

しかし、公共工事の拡張と裏腹の関係で社会保障の削減はさらに過酷となっています。

今年4月の診療報酬改定では、急性期病床の1/4を亜急性期病床に変えてしまうような、10年かかってやるべきことを1回で済ましてしまうほど急進的でした。それに引き続いて、介護保険を大改悪する「医療介護推進総合法案」が516日に衆議院を通過しています。

昨日のニュースを見ていますと、「産業競争力会議」でいわゆる「残業代ゼロ法案」の議論が紹介されていました。この会議は、内閣の中にある「日本経済再生本部」という経済産業省主導の組織のもとにある会議です。規制緩和・市場創出を目指す政府の司令塔の一つです。

ここでは年収900万円程度の労働者にこれを適用しようとする経済産業省が年収3000万円以上に限定しようとする厚生労働省を圧倒して、政策の主流にいることが良くわかります。

しかし大問題なのは、残業代がゼロになるのが高収入のサラリーマンだけでは実はないということです。会社と労働者が合意すれば、普通の収入の労働者にも適用されるということが故意に隠されています。

この当事者同士の合意があれば何でもできるというのはどこかで見た気がしませんか?

 規制緩和・市場創出を目指す政府のもう一つの司令塔「規制改革会議」が327日に出した「選択療養」案です。(資料1)

ここでも経済産業省が主役でした。これまでは健康保険と自由診療の組み合わせが出来るのは 評価療養と選定療養というごく限られた医療行為やサービスだけでした。評価療養は、いずれ保険診療に組み込むまでのものをリスト化して示すという意味合いで、選定療養は差額ベッドや人数を限った予約診療など僅かなものでした。

 しかし、選択療養は、それらとは全く違い、医療機関と患者の合意で実施されるもので、これを限定しないというものです。極端に言えば、教授の内視鏡は10万円で、研修医の内視鏡は1000円に出来ると言うようなものです。安全性が確認もされていない薬も堂々と使えることになります。

 さすがにこれは日本医師会が猛反対しているのですぐには通らないと思いますが、当事者同士が合意すれば、必要な公的規制などはクソ食らえという風潮が政治に満ちてきているのが分かります。

 

 それから、産業競争力会議に話は戻りますが、この会議でもう一つとんでもない計画が持ち上がっているのを最近知りましたので、ご紹介しておきます。

 元総務大臣だった増田寛也氏が提出している、非営利ホールディング型カンパニー創設の計画です。

 これは岡山大学で試験しようとしているものですが、岡山大学病院を中心に、岡山の主だった大型急性期病院を全部資本統合してしまい、それが、岡山県全体の医療の医療も支配しようというものです。(資料2)

 このことの本質は、しかし、田村厚生労働大臣が提出した資料をみないと分かりません。(資料3)

 実は、この非営利型ホールディングカンパニーには、株式会社が自由に投資し、利益を受けとっても良い仕組みになっています。

 非営利、というのは全くの偽りなのです。

 この株式会社にどこが想定されているかといえば、米日の生命保険会社、製薬会社です。

 巨大病院チェーンと巨大金融会社の複合体が医療と介護、急性期医療と地域包括ケアのすべてを支配する仕組みがここで計画されているのです。厚生労働省が善玉でないことはここで分かります。

 この形態は、アメリカではすでに出来上がっており、オバマ大統領がアメリカで初めて実現した「皆保険制度」いわゆるオバマ・ケアは、低所得者にこの複合体と契約させることを義務化したものです。

 複合体の主力である金融会社は、これを証券化して売っていますので、低所得者が保険料を支払えなくなる、すなわち、日本の国保と同じことが起これば

かってのサブプライム・ローンと同様の恐慌の引き金になることも懸念されているのです。

 そういうものが日本で実現されようとしていることに私たちは最大限の警戒を払っておく必要があろうかと思います。

 最後に、日本の国保がどういう状況にあるかを全日本民医連が発表しましたので、それを資料につけました。残念ながら山口民医連はこの調査に加わっていません。(資料4)

 そういうことを考えれば、56人を約2000倍して、全国130万人の死亡のうち10万人くらいはこういう無念の死であったろうかと想像されるものです。

 本日は総代会議案の討議など重要な議題が多いのですが、ぜひ、こういう背景を考えつつ熱心なご討議をお願いするものです。

 

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