増子忠道「やりなおし介護保険」筑摩書房2013
自分で言うのも変だが、僕は介護保険施行前は、山口県で最も介護保険に詳しい医師だった。県立大学の専門家が、「制度のことでわからないことがあれば野田先生が全部知ってますよ」と言ったりしたものだった。山口県保険医協会を拠点に県内の主要都市全部をまわって「あるべき介護保険を市民の手で」と講演した。その後、「介護療養病棟廃止反対」でも同様の活動をした。
しかし、それから10年経つと、その間ずっと中小病院の医療現場に沈潜していたため、介護現場がみえなくなってしまって、介護保険にも疎くなった。
いま、増子忠道先生の「やりなおし介護保険」筑摩書房2013/10を導きにして、介護保険の勉強をやりなおしている。極めてユニークな記述で、この本の読書会を地域ですれば、介護問題に強い市民組織がすぐにできそうな気がする。
それにしても、なぜ、介護労働者の賃金がこんなに低いのかについて、上野千鶴子の大冊「ケアの社会学」太田出版2011/8を読んで、介護労働は本質的に対価のない家庭女性の労働と社会が見なしているからだと思ったのだが、増子先生の本を読んでいると、そればかりでもないのではないかという気がした。
もちろん介護保険制度への公費負担が少なすぎるというのは大前提としての話である。
倒産したコムスンを引き継いだニチイ学館を代表とする株式会社のシェアが拡大し続けていることこそが原因なのではないか。安価な「女の仕事」として医療から分離されたので容易に搾取できると踏んで彼らがなだれ込んできたという言い方もできるが。
それだけで十分なのかどうかはわからないが、介護保険事業者を、医療保険と同様に、非営利法人に限定することは、この事態を一歩打開することになるのだろう。
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