« 2014年3月 医療生協理事会 理事長挨拶 | トップページ | 平田オリザ・井上ひさし「話し言葉の日本語」新潮文庫:井上ひさし・・・人生というのは九割九分まで辛いことの連続だというのが僕の世界観です。 »

2014年3月29日 (土)

金時鐘「猪飼野詩集」岩波現代文庫2013/10 『寒ぼら』

有名な在日の詩人・金時鐘さんの自伝 「わが生と詩」(岩波書店2004)は読んだことがあり、その感想はこの ブログに書いたこともある。
本業の詩集 はこの本で初めて読む。だが、難しい。

日本語のはずだが、分からない言葉や地名が多くある。
詩集の最初の方にある一つの詩を僕なりに「訳して」みた。
これで正しく理解しているのだろうか?自信がない。

この「寒ぼら」という詩の主人公は『「なかおり」おっさん』である。
(「なかおり」とは「中折れ帽」のことではないらしく、意味不明である。 )
おっさんはいつも、自分の刺し網がまだ上げられていないと嘆く。
(刺し網とは魚の通り道にしかけておく網のことである。)
おっさんは朝鮮の故郷にしかけたままの刺し網を置いてきたのである。そこにかかっている魚のことが気にかかって仕方が無い。今日は大阪の中央市場に上げられた韓国の魚が全部自分のものだったように思えてしまったほどだ。
おっさんは凍えるような朔風=北風の吹く日に全身が真っ青になりながらその網を張ったことを昨日のように覚えている。しかしその夜、突然、日本人の徴用に遭遇し、日本に強制的に連れられてきたのだ。
荷物のように船底に積み込まれたので、どこの海を渡って、日本に来たか分からない。
日本に来てした仕事は炭鉱夫だった。
戦後は大阪でバフ研磨という、布に研磨剤をつけて部品を磨く仕事をしたので、戦前からずっと目の周りは隈取りのように粉がつきっぱなしで来た。
還暦と言われるのを不吉がり、釜山の近く、かっては日本軍の軍港で、今では韓国軍の軍港となった、その一方桜の名勝としても知られる鎮海(チネ)という土地に帰るまで生きていたいと思い続けている。
そのおっさんが、張ったままにして来た刺し網のことを思い出して泣くのが猪飼野の名物になっている。
ある夜、おっさんは古ぼけたオーバーの肩に寒ぼらをぶら下げて歩いていた。
そのぼらは遠くおっさんの故郷の刺し網にかかった獲物のようだった。

|

« 2014年3月 医療生協理事会 理事長挨拶 | トップページ | 平田オリザ・井上ひさし「話し言葉の日本語」新潮文庫:井上ひさし・・・人生というのは九割九分まで辛いことの連続だというのが僕の世界観です。 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

いつも拝見させて頂いているものです。先日の新聞に、「チスル」という映画の紹介が載っていました。済州島の1948年、4・3事件を扱ったもののようです。関連して思い出したのがその頃、日本に来られた金時鐘さん。金さんの言葉は美しく、日本人が使わないような言葉で詩を書かれます。直に講義を受けておかなければ・・・と想起したところです。

投稿: みなみ | 2014年3月31日 (月) 10時04分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 金時鐘「猪飼野詩集」岩波現代文庫2013/10 『寒ぼら』:

« 2014年3月 医療生協理事会 理事長挨拶 | トップページ | 平田オリザ・井上ひさし「話し言葉の日本語」新潮文庫:井上ひさし・・・人生というのは九割九分まで辛いことの連続だというのが僕の世界観です。 »