ピロリ菌感染と内視鏡(雑誌 臨床消化器内科2014年3月号 日本メディカルセンター刊)
ピロリ菌感染の知見が蓄積するにつれて、日々の健診的な胃内視鏡検査も変容し始めた。
癌があるかないかを診断しているだけではだめということになった。
ピロリ菌感染がないか、あるか、あるいは昔はあったが今は治っているかを判定することが求められている。
難しい言葉でいえば、①未感染 ②現感染 ③既感染を 内視鏡できちんと区別できるということである。
また、除菌治療を行った後、それが成功していれば現われてくる変化も分かっている。
若年層のピロリ菌感染を徹底して除菌すれば、胃癌を撲滅できるという、まるで第2次大戦中のような熱気が内視鏡室にある。もちろん僕はそういう熱気からは本能的に離れているのだが。
以下、メモ代わりにそれぞれの代表的所見を紹介しておく。
①未感染
○胃角部小彎の小さな規則正しい発赤点(RAC regular arrangement of collecting venules)
○胃体部小彎のくし条発赤
○小さな点状出血
・・・これらは、いずれもピロリ菌による胃粘膜委縮がなく胃酸分泌が正常にあることと関連しているものと思える
○胃底腺ポリープ
・・・・これが一番確実と僕は思っている。ムカゴの実のような小さいポリープが胃体部にたくさんあるのは、まさに胃が健康である証拠で、何も病的なものではないのだ。しかし、僕の周囲には、これを毎年毎年生検している内視鏡医がイナイではない・・・もちろん洒落を言っているのである(胃内)。
②現感染・・・これは常識的な変化である
○萎縮性変化と化生性変化
○胃体部大彎の襞の肥厚・・・これはおそらく、胃酸分泌領域が狭くなっているので代償的に残った部分が一生懸命胃酸を作っているからではないだろうか
○胃体部の浮腫
○胃体部のやや大きい点状の発赤
○胃体部の滲出物
○前庭部の顆粒状変化すなわち鳥肌胃炎
・・・・これを一度若い女性の内視鏡検査で見てしまうと、そのトラウマで焼鳥のトリの皮が食べられなくなってしまった。何が本態かというとリンパ濾胞の反応性の肥大である。この所見が一番大事だと思っている。なぜかというと、これを正しく診断することが、非常に悲惨な若年女性の胃癌の早期治療につながるからである。
③除菌後状態=既感染
○胃粘膜の萎縮は除菌しても改善しない
○穹隆部の斑状発赤(MPE mottled pathy erythema)
④除菌が成功すると現われてくる所見
○胃内貯留液が混濁してくる
○胃体部の襞が痩せてくっきりしてくる
○胃体部に健康的な微細な点状発赤が現われる
以上が一番大切なことだが、、ついでの情報もメモしておこう。細かいことを言うときりがないのだが。
*血液で検査するピロリ菌抗体価のカットオフ値はやや高く設定されすぎで、偽陰性になりやすい。年齢を考慮しながら、感染を疑うグレーゾーンを設定して、二次検査として尿素呼気試験UBTを追加したほうがよい。
*除菌中の禁煙は重要。喫煙すると胃粘膜血流が低下し、せっかくの薬が胃に届かないからである。
*フラジール(メトリダゾール)を用いた二次的な除菌治療中は、禁酒が大事。フラジールのおかげでものすごい二日酔いが襲ってくるからである。もちろんこれを黙っておいて、禁酒に持ち込むという裏技があるかもしれない。実行すれば人権侵害であるが。
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