矢吹紀人著・全日本民医連編「看護10ストーリーズ ー輝く命 の宝石箱」本の泉社2014/3
他人に依存して生きることと、依存する人のために労働することは、飲み、食べ、住む、着ることと同等の人間の本質である。
しかし、それは括弧に入れて(ないものと仮定して)社会のルールや正義が構想されようとする。それが市場のありようである。
僕たちはそれに反対して、人間関係や社会の基礎に依存ー被依存労働関係を置いて考え始める。
それは、柄谷行人が、生産関係の代わりに交換関係を土台にして上部構造がそびえる経済社会構成体を構想するのによく似ている。ともに見返りのない贈与や互酬がその出発点にあるのである。
未来はそのより高度な再建である。
さて、上記の本は、現代の民医連看護の典型的な姿のナラティブである。
アルコール依存症の父が散々お世話になる病院に勤め、自らもアルコール依存となりながら、仲間に支えられて生きて行く看護師の語りもある。その人が甲状腺癌になり、死が近づいて来たような気がした時に「ああ、人生って面白いな」と呟く場面(90ページ)がこの本では最も印象に残った。
それは追いつめられた時の僕の呟きでもあるからである。それをどう乗り越えるかは人生の意味なのだろう。
依存ー被依存労働の本質が次第に見えてくる話が並んで、「ケアの倫理」を考えるには最適の資料と言えるだろう。一つ一つの話に感動が詰め込まれているのもー間違いがない。
「病棟のなかで最も困難な人に光をあてると、それ以外の人にも光が当たる」(132ページ)という看護師長の言葉は、自然にロールズ「正義論」の「格差原理」を思い起こさせるし、同時に、その位置づけをロールズ自身が考えたより高くするべきだという思いを強めてくれるものである。
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