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2014年1月14日 (火)

ある講演の準備 Ⅱ

健康の社会的決定要因 social determinants of healthSDHは、「社会格差が健康破壊を生む」という因果関係を証明するために探求された中間経路の諸要因のことです。

それがどうやって確定されたかを、中心人物、マイケル・マーモットの足跡をたどりながらお話します。 

(マーモットのホワイトホールスタディ1974WHOヨーロッパ事務局2003「ソリッド・ファクツ」、WHOSDH委員会最終報告「一世代のうちに格差をなくそう」 2008、 イギリス政府「マーモット・レビュー」2010を概括して説明)

SDH

発見の意味は、第一に社会格差と健康破壊の間にある因果関係を確立したところにあります。SDHの発見で社会格差が健康破壊を生む、と明言できるようになったわけです。

この辺りは2010年にWHOが発表した「健康の社会的決定要因の枠組み」の方がより体系的にそれを示しています。

したがって、これからは単にSDHというより、SDHを中核とするシステムという意味で、「SDHの枠組み」という名称を使った方がよいかもしれません。

これによって社会格差が人類の正義に反すること、無くしていかなければならないものであることが判明しました。私たちがその次にするべきことは「なぜ社会格差が生まれるのか、次第に激化していくのか」という疑問を探求し、その答えに応じて社会格差をなくす戦略を立てることです。

それは経済学の学習であり、社会主義の探求なのでしょう。人々をその出発点に立たせる上でSDHの探求はなくてはならないものだったということです。そういう意味では、正義の理論を探していたアマルティア・センやジョン・ロールズに対してSDHは彼らの理論の裏付けを与えたともいえるのです。

これは、病気の治療だけに終始している今の私たちを「崖の下に待機している救急病院」であるという比喩で呼ぶなら、崖の上の大殺戮、健康破壊を根本的に止めるということです。

SDHの第二の意味は目の前で社会格差が健康破壊を生んでいる現状を緩和する具体的な改良策を、領域を明らかにして示したことです。

2003年のソリッド・ファクツでは「不幸な子ども時代をなくす」などの具体的8項目が示されました。これは崖っぷちに追い詰められた人たちが崖から落ちないための柵、あるいはイチロー・カワチがよく使う比喩では、川の上流で突き落とされている人のための柵に相当するものです。それ自体では、格差はなくせませんが、格差によって健康破壊に突き落とされる人を救う当面の改良策としては切実なものです。

この目的に沿う日常の診療活動を構築する医療学は、やはり「崖の下の救急病院」の医療学とは違うものだと思います。

それはまず何より、患者が自ら自分の健康に対する侵害に対して闘うための医療学です。それは「患者中心の医療」

Patient Centered Medicine =

PCM

と呼ばれます。

それは治療モデル=キュアの医療ではなく、生活モデル=ケアの医療とも言われます。正しく言うと、従来家庭医療学として発展してきたPCMSDHの枠組みの視点を導入したものと言えます。そういう意味では「新しいPCM」です。

それについては二回目の休憩後にお話します。ここまでおわかりにならなかったことはないでしょうか?

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