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2014年1月22日 (水)

ある講演の準備 Ⅲ  患者中心の医療PCMとSDHの融合について

では、最後の部分に入ります。

これまで、社会格差が健康格差を生むということがどうやって証明され、その中で発見された健康の社会的決定要因SDHが、健康権のための健康戦略実現にはじめて可能性を与えただけでなく、健康こそがその社会にどう正義が実現されているかを測定する物差しなのだという健康観の革新をもたらし、社会変革と健康の関係が見えてきたてきたということをお話ししてきました。

次は、それを私たちの現場の診療にどう生かしていくかが問題です。これは、健康権を日常からどう構築していくかという問題です。

私は、そこには、ある仕掛け、すなわちSDHを受け止める仕掛けが必要だと考えています。

SDHを受け止められるように構造化された日常診療システム、それは人の体制というより、診療行為の中に内在する構造、いわば、診療の中の哲学のようなものです。

そういう構造をそなえた「診療学」として、私はカナダのイアン・マックウイニーが唱えて世界に広がっている「患者中心の医療」PCMが最有力な候補だと思っているところです。

診療学は、看護学やコーチングがそうであるようにたぶんに質的研究に基づくものです。質的研究というのは、日常から湧き上がってくる意味のある考えを検証すべき仮説としてまとめあげることをいいます。

村や町や職場に自然に存在するいろんな意味のある言い伝えはそういう仮説であり、その仮説を意識的に仕上げることが質的研究だと言って差し支えないと思います。

医療学としての「患者中心の医療」は、優れた家庭医を多数観察することから、優れた診察とは何かを抽出することから成熟していきました。

有名なエピソードは、マックウイニーが南アフリカからカナダに1年間招待して、その診察法を観察し体系化した相手の、レーベンスタイン医師の話です。

この優秀な家庭医は、来院した患者の医学的な主訴と、個人的な来院理由を区別して、必ず両方を把握する診察をしていました。そのことがレーベンスタイン先生が絶大な信頼を患者から得る理由になっていたのです。

これを、マックウイニーは疾患diseaseと 患者の病い体験illnessと表現しました。疾患とはこの患者について医師が描く物語、病い体験とは病気になった患者自身の言葉で語られる物語です。

これを基礎に、診療の中でやり遂げなければならないことが合計6個挙げられていきます。一つ一つをコンポーネントといっています。

疾患と病い体験の双方を捉えるというのが第1コンポーネント。

患者の病気について、社会・生活的な背景を探るというのが第2コンポーネント。

患者と医療従事者の間で、何が問題なのか、目標は何か、そのためお互いどんな役割を担うのかの3点で共通基盤を作るというのが第3コンポーネント。

患者が生きてい行く力を得ているところ、すなわち患者の強み、健康な部分を探ることが第4コンポーネント。

医療チームの力で現実的に解決を支援することが第5コンポーネント。制度改善運動やまちづくり運動を企画することもここに入ります。

医療従事者と患者が、同じ地域の生活者としてお互いを尊敬しあい信頼し合うことが第6コンポーネント。

6個のコンポーネントがどういう関係にあるは色々に考えられています。

中心は第3コンポーネント「共通基盤」であることは間違いありません。

第2コンポ―ネント「病気の全人的理解」と第4コンポーネント「健康な所を延ばす」は対になるもので、ここにSDHの視点があますことなく応用されていく必要があります。

第5コンポーネント「現実的解決」は目標です。

第1コンポーネント「お互いの物語の尊重」、第6コンポーネント「お互いの人格の尊重」は患者中心の医療の総論ではないでしょうか。

SDHと患者中心の医療を合体させることは、患者中心の医療自体の変革であり、それこそが今後の民医連医療の役割だと思います。

SDHと合体した「患者中心の医療」こそが民医連のめざす総合診療であり、それはいわゆる「総合診療医」だけによって担われるものではありません。

全職員、全院所が実践するものとして総合診療は存在するのであり、そのとき必須の最小単位の医師の組み合わせは、≪総合内科医+精神科医+歯科医≫のように私には見えています。

そうした、総合診療のネットワークが地域に広がり在宅ケアとも結びついた姿が、私が思い描く「あるべき地域包括ケア」なのです。

以上で、私の言いたいことはほぼ終わります。

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