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2013年9月30日 (月)

村岡 到「友愛社会をめざす 〈活憲左派〉の展望」ロゴス2013・・・蔵原惟人監修 「世界短編名作選 ソビエト篇」新日本出版社1978に収められたエマヌイル・カザケーヴィチ(1913-63)「敵」を思い出させる

元 東京 足立区長で、都知事選挙にも出たことのある吉田万三全日本民医連副会長から、民医連の4役会議で売りつけられた本。吉田さんは恐ろしく顔が広いのである。元中核、また第四インターに所属していた活動家の本を自分が読むとは思わなかった。

実は以前、健康権と生存権の関連と区別を考えていて、憲法25条になぜ「生存権」という解説的な見出しが付されたのかを調べた際に、村岡さんの論文にも遭遇したので、その名前は知っていた。

村岡さんは、マルクスと同時代に生きたドイツの法学者アントン・メンガーの流れを汲む戦前の厚生経済学者福田徳三(1874ー1930)の影響を強く受けた敗戦直後の社会党国会議員・森戸辰男が、ベアテ・シロタ・ゴードンらの作ったGHQ憲法草案を発展させて憲法に「生存権」を加えるように主張したことなど明らかにしていた。

その後、雑誌「世界」2013年4月号の「内橋克人の憲法対談」:『福田徳三に学ぶ」内橋克人×清野(せいの)幾久子を読むと実際に25条を実現させたのは森戸でなく鈴木義男とわかっているようだが、いずれも社会党国会議員で民間の憲法研究会(鈴木安蔵が有名だが)の会員であるので、森戸だったとしてもあながち間違いと言うものでもあるまい。

さて、この本は肩が凝らず読みやすい。土、日曜の東京出張の飛行機の中で読み終えた。

中でも「則法革命」には同感である。

僕自身は、社会主義革命以前の諸革命は経済革命が政治革命に先行するのに対して、社会主義革命だけはまず政治革命による権力奪取が先行して、しかるのち、生産手段の社会化という経済革命が起こるものだと教えられて来た。蔵原惟人さんなどは、それに文化革命の位置づけを加えて、新日本新書を書いていたものである。

しかし、医療生活協同組合やワーカーズコープ、さらには内橋克人さんの唱えるFEC自給圏などの(非営利)協同セクター経済の可能性を目の前にみているとその定式は怪しいと僕は思うようになった。

むしろ(非営利)協同セクターの拡大と影響による経済変革、政治変革が同時進行するのではないかと思ったのである。

柄谷行人の「世界史の構造」岩波書店2010など読んでもその感を深くした。

村岡さんは、どういう新しい政治革命が可能なのかという認識を問題にしている。つまるところ選挙による政権獲得であり、それはプロレタリア独裁や執権という一旦成立すれば後戻りすることのないような固定した共産党支配の確立ではない。毎回の選挙で常に政権交代の可能性があるものであり、革命といっても法に則った平和的なものであることの原理はもはや変わらないとしているのである。

自伝としての回想部分もすこぶる面白い。科学者会議との争いでは、どうも村岡さんに分がありそうである。
しかし、著名人の知遇を得ることをとても重要に思っていたり、自分の文章がどこに採用されたかの自慢を感じさせる記述が目立ちすぎる。

強い自己承認の要求に衝き動かされているかの様に見られて損しているのではないかと心配になった。

少ない年金で、生活が苦しいという率直な記述には好感が持てるが、「ヤマギシ会」に社会主義の新しい可能性を見いだして、この本の書名もそれに由来にしているなどといわれると、かってのある毛沢東盲従主義の学者などを思い出して、「大丈夫かな、この人」と思わされる。

ところで、圧巻は、共産党の幹部像のスケッチである。尊大なS委員長、礼儀正ししいI書記局長、K代議士、Y代議士、親しみ深い上田耕一郎、吉岡吉典の両故人、聴濤弘さんなど。宮本顕治も食えないが懐の深さを感じさせる人物として描かれている。

それは蔵原惟人監修 「世界短編名作選 ソビエト篇」新日本出版社1978に収められたエマヌイル・カザケーヴィチ(1913-63)「敵」に出てくるソビエト政権幹部の描写を思い出させる。

思えば、この短編もレーニンが政敵マルトフに抱き続けた友情がテーマだった。若い一時期属していた党派が何かは、むしろ偶然によることが多く、どういう人間なのかには無関係なことなのだろう。

*著者の村岡さん自身から、共産党幹部のスケッチの誤読を指摘されて、変更しています(2013・10・5)

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コメント

 偶然にも発見しました。その筆者です。書評、誠にありがとうございます。
 生存権について、私のどの論文が目に入ったのでしょうか? ありがたいことです。
 万三さんには先日も全労連会館で会いました。
 私が出している雑誌の次の号に、拙著についての評を集めているのですが、そこに転載させていただけませんか?その雑誌の見本誌『プランB』を送付したいので、できればご住所を教えてください。
 ではよろしくお願いします。
村岡到

投稿: 村岡到 | 2013年10月 3日 (木) 21時06分

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