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2013年8月 1日 (木)

初めてのカンダハーのスキー

いつものように寝付きの悪いまま眠った後、胸の軽い痛みで目が覚めた。このまま死んでも構わないと思うとなぜかようやく全身の緊張が解けて行き、しばらく暗闇を眺めていた。

そのうち、子どもだったころのある出来事を思い出していた。そして、今まで考えなかったことがあるのに気づいた。母はなぜあんな嘘をついたのだろうか。

僕の生まれた家の50mばかり離れたところに、近在で唯一のスキー工場があった。戦前は僕の家の小作人だった山下さんという一家が、主に父親と息子で細々と地元用のスキーを作っていた。

僕の祖父の発行した古い郷土写真集にもその工場の写真はあったから、昭和初期からの家業だったのかもしれない。

話は、僕の5歳か6歳かの誕生日(1月10日)の1ヶ月ばかり前に、母がその工場に僕用のスキーを注文してあげたよと言ったことから始まる。

飛び上がるほど喜んで、それから毎日僕は山下さんの家に行って、僕のスキーはもう出来たかと聞き続けた。

「まだだよ」と毎回山下のおじさんは返事した。その繰り返しだった。

ついに誕生日が来たが、山下さんは「まだだよ」と言った。「忙しいけぇね」

その夜、外は雪が降り続けている中で、夕食を取り始めようとした時、玄関で山下のおじさんの声がした。

「これ、坊(ぼん)さんのスキー」と言っている。坊さんとはぼくのことである。

母親は驚いて、「お代を払いますけえ」と言った。

「代はええです。ひろちゃんが毎日来んさって聞きんさるから作ってあげとうなったけぇ。誕生日の祝いですけぇ」

「すみません、すみません」と母は何度も繰り返した。

これが僕の初めて持ったスキーになった。ゴム長で履く田舎のスキーでなく、大人のようなスキー靴用の「カンダハー」という金具が付いたスキーだった。

(⇒カンダハーというスキー用具については以下のサイト参照してください。

http://trace.kinokoyama.net/gear/kandaha080328.htm

靴は間もなく買ってもらうことになった。近所でただ一人でスキー靴を持つ子どもになった。

このスキーと靴は数年使い、小学校3年のときは、大雪が積もってバスも通らなくなった冬の日に父の転勤先の中学校まで30kmをスキーで歩き通して驚かれた。

しかし、斜面の滑降はボーゲンを父に一度だけ教えてもらって身につけただけで、当時クリスチャニアと言っていたパラレルは憧れながら教えてもらう機会もなく今に至っている。

この話を今日までは、僕の子ども時代の心温まる話だと思っていたのだが、今日初めて、母がなぜ、僕にそんな嘘をついたのかわからずじまいだったことに気付いた。

もう50年以上昔のこととなり、母も亡くなって12年経つので結局わからないままになるのだろう。

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