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2013年6月30日 (日)

上野 千鶴子「ケアの社会学」太田出版2011・・・柄谷行人の交換様式土台論を採用するとより説得的になりそうだ

雑誌「atプラス」14号2013に掲載されていた、上野千鶴子+山崎章郎の対談を読んで「ケアタウンたかのす」に興味を持ったことから手に取った一冊である。

476ページの大著。しかも最初ほど難しく、後に行くほど易しいという、まるで「資本論」をまねたような構成になっている。

多くの人に読んでほしくないのだろうなぁ。むしろ「おひとり様の老後」が売れてほしいのだろう。

したがって、最初の方のメモはほとんど作る気になれない。

一つの大きなテーマになっているキャロル・ギリガンVsローレンス・コールバーグで代表される「ケアの倫理」vs「正義の倫理」の対決については、のっけからまごついてしまい、川本隆史さんから分かりやすい解説文章(江原由美子・金井淑子編「フェミニズムの名著50」平凡社2002中の「キャロル・ギリガン『もう一つの声』)を送ってもらってようやく輪郭が見えたほどだ。

その上、そこでいう「正義の倫理」は、たかだか「功利主義的正義の倫理」であり、ジョン・ロールズやアマルティア・センの本格的な正義論はまだ登場しないので、この論争も大きな意義を持っていたとは思えないから、読んでいて飽き飽きもしてくる。

ただ、その叙述の中で、この本がアマルティア・センの「潜在能力の平等に基づく正義」こそをバックボーンとしていることが明かされており、それはセンを一つの目標として勉強し始めた僕には励ましとなるものだった。(75ページ)

 Ⅰ と言うわけで、前半で押さえておかなければならないところを相当恣意的に挙げれば次の3点だろうか。

①158ページ「ケアの値段はなぜ安いか?」・・・つまるところ、ケアが「女の仕事」とされているからである

②高齢者は障害者運動から学なければ「当事者主権」の思想を確立できない。

その上でなすべきことは、ケアワーカーが何をなすべきかは当事者に聞き、より良い対人関係の中でそれを実現する以外にないということを、徹底することである。

それによって、介護保険におけるサービスの上限設定が撤廃され、その点で障害者支援と並ぶという展望を得るだろう。(183ページ)

高齢者の介護も障害者の介護も同じだ。どちらにとっても良い介護は、当事者のニーズに基づく個別ケア以外にない。そして個室化は、その十分条件ではないが、必要条件だ。(213ページ、212ページ)

介護労働の特徴を説明するために「感情労働」と言う概念を導入したのは有害だった。介護労働が苛酷になる最大の理由は、低賃金と、一人職場の重圧にある。

Ⅱ 後半の圧巻は生活クラブ生協のワーカーズ・コレクティブの話ではない。

なんといっても富山の小規模多機能事業「このゆびとーまれ」の実践である。

高齢者、障害者、乳幼児をまとめてケアすることで、地域まるごとケアの姿勢が打ち出されている。

そして、民家を利用したネットワークづくりは地方ならではのことであり、今後の地方における安心して住みつづけられるまちづくり」の可能性を見事にしめしている。高コストのサ高住はやはり大都市型で、地方では有床診療所の代用としてでもない限りさほど必要とされないのだろう。

そして、「このゆびとーまれ」を中心に富山小規模多機能施設起業家セミナーが盛んにおこなわれているというのは、地方経済の活性化の可能性も示している。

これらのことは民医連の事業と運動に極めて豊富なヒントを提供するだろう。

とくに乳幼児のケアに同じ施設で取り組んでいく、小規模多機能施設での起業を援助して雇用を作り上げるという姿は、マーモット・レビュー2010(イギリス)で示された健康政策に合致するもので、「まちづくり」が、健康の社会的決定要因に焦点を当てた健康戦略に等しいことの証明ともいえるだろう。

*なお、これらの小規模多機能施設が、2006年厚生労働省にアイデアを盗用されて「包括契約・定額制」を押しつけられた介護保険の同名の制度に参入していないというのも痛快である。

〇ケアタウンたかのす については詳しく述べる必要はないだろう。いくら善意で、先見性に富んでいても「行政」だけでは地域ケアを作れないということである。

行政が、自分に協力する「協」=第3セクターを生み出すのも無理だ。結局は行政は、「協」のありかたに最大限の注意を払い、後からついていく形で協力するのがよい。

しかし、秋田県鷹巣町という日本の周辺からからこれだけの影響力を発信した町長の功績は不滅だろう。

〇そのほか上野千鶴子はウォラーステイン、カール・ポランニーを引用しながら「協」セクターによるケアの創造という自説を展開しているが、さらに「協」セクターの位置づけとして柄谷行人が「世界史の構造」などで提唱している(資本、国家、ネーションの3要素からなる)交換様式を土台にした社会構成体のどこに位置するかという視点を加えると、より理解しやすいものになるだろう。

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