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2013年4月15日 (月)

民医連と健康権、健康の社会的決定要因SDH

 全日本民医連の大きな行事の中で、「日本におけるSDH研究の達成について学ぶ」というセッションを担当することになったので、企画説明文を書いてみた。

長すぎて、参加者に実際に配布される抄録集冊子の編集過程で大幅に削られるのは確実である。そのまま日の目を見なくなるのも惜しいので、あらかじめここにアップして置くことにした。


全日本民医連は第39期運動方針で「憲法25条を日常生活に生かし、すべての人々の『健康権』を保障させる運動」を呼びかけ、第40期運動方針では「今後深めていく論点として、①健康の自己責任論の対抗軸としての健康権の位置づけ②憲法13条、25条と健康権の関係③健康権の到達すべき具体的な内容の提示④綱領の実践に健康権を位置づける意義など」があることを提起しました。

 その後の議論の経過をまとめてみると以下のようになると思えます。

①「健康の自己責任論の対抗軸としての健康権概念」
WHOが提唱した健康権実現のための健康戦略の30年以上にわたる歴史的発展の中で、プライマリ・ヘルス・ケア、ヘルス・プロモーションに次いで、『SDHにもとづくヘルスプロモーション』という新たな段階(第3段階)の健康戦略が誕生したことから、SDH(健康の社会的決定要因)の存在が科学的に実証され、SDHの認識そのものが健康の自己責任論への決定的な反証となっていきました。

ここで記述が詳細になりすぎるのを恐れずに付け加えれば、ヘルス・プロモーションがより高い段階に達する根拠となった、個人や地域が置かれた社会経済的状態(Socio-economic state SES)と、その個人や地域の健康状態との間の相関関係は様々な研究から明らかですが その検討の主要な点は、SESの低さと不健康を結ぶ中間経路を詳細に明らかにすることです。その中間経路が妥当であればあるほど因果関係がより確かになるからです。
その経路がSDHそのものです。

その位置づけについて、WHOのSDH委員会は2010年に以下のような「健康の社会的決定要因に関する枠組み」を示しました。(図は略)

これによると社会経済政治的背景とSESを健康の構造的決定要因とし、それと健康状態を結ぶ中間決定要因(媒介要因)がSDHだとされています。
 

これに従うと、従来ヘルス・プロモーションの概念図として描かれていた島内の図も以下のように改変して理解すべきものと思えます。(図は略)

したがってSDH探求の意義は、①SESと不健康の間にある因果関係を証明することと、②健康政策の立案・実施、また政策の健康評価を行う基準を明確にすることにあると言えます。

②生存権と健康権
これについては用語の混乱がまだ残っています。字義通りの生存権the right to lifeは一般的には憲法13条に記述された「生命の権利」をいい、憲法25条は国連を中心に確立しつつあった健康権 the right to health を憲法制定当時の日本の貧窮のなかで部分的、限定的に表現したものと言えます。
ただし、憲法25条の条文自体や【生存権】の見出しには、憲法制定時の国会内外での議論が反映しており世界の健康権概念の発展にそのまま沿っていたわけではありません。具体的には、19-20世紀ドイツの法学者アントン・メンガー、戦前の日本の経済学者福田徳三、当時の国会議員森戸辰男・鈴木義男と引き継がれた思想(Recht auf  Leben)が反映されて憲法25条第1項の条文と【生存権】という見出しが生まれたのです。
しかし、健康権概念の有力な源であるイギリスのフェビアン社会主義には、アントン・メンガーの思想が強く影響しており、世界的な健康権と【生存権】の見出しが付された憲法25条をことさら区別すべき理由はないものと思えます。
加えて、日本の戦後の社会保障運動が一貫して「生存権」保障をめざして歩んできたことと考え合わせれば、当面「健康権・生存権」と併記して行くのが最善と思えます。

③「健康権の到達すべき具体的内容」
健康権を実体化した健康政策目標は、国際的にはWHOのSDH委員会最終報告「Closing the Gap  in a Generation」2008や、SDH委員会の議長マイケル・マーモットによる「マーモット・レビュー」2010の結論部分に示されていると言えます。とりわけWHOのSDH委員会最終報告が「すべての政策について健康と健康の公平に与える影響を測定しよう (健康影響評価HIA: health impact ssessment の重視)」と訴えていることと、マーモット・レビューの結論ともいえる以下の6点の提唱が重要です。
1全ての子どもに最良のスタートを与える
2すべての小児、青年、成人がその潜在能力を最大限発揮し、人生をコントロールできるようにする
3すべての人に公正な雇用と安全な労働を創造する
4すべての人に健康的な生活水準と環境を保障する
5健康的で持続可能な地域とコミュニティを創造・開発する
6病気の予防の役割と影響力を強化する
日本でも、日本における独自のSDH研究の成果に基づいて、このような健康政策目標を作り上げることが急務となっています。

④「綱領の実践に健康権を位置づける意義」
綱領の目指す「新しい福祉国家」の基本理念が健康権にほかならないことがこの間の議論で次第に明らかになってきました。

【 獲得目標 】
 以上を踏まえながら、このセッションでは、今期運動方針をさらに具体化するために
1) 健康権実現をめざす上での健康の社会的決定要因(SDH)探求の意義を改めて見直し、日本におけるSDH研究の最前線に触れる
2) 日常診療の中でSDHに基づくヘルス・プロモーションを実践したり、日本におけるSDH研究に積極的に貢献する方法や経験を交流する
という2点を獲得目標として開催したいと考えます

【企画】

上記を踏まえて、まず第一に日本のSDH研究の責任者というべき 岸玲子先生にその現況を教えていただくことを企画の大きな柱とします。

次に、民医連独自に努力している実例の報告をします。これは

①健康権と密接な関係にある環境問題にも視野を広げる意味で、日本の代表的な公害病として民医連加盟事業所の力を結集して取り組んでいる水俣病を取り上げて、そこに貫かれている社会的要因を考察する

②アカデミズム側のSDH研究の成果を学んで活用するというだけでなく、全日本民医連全体の臨床現場を拠点フィールドとしてSDH実証研究に挑み、政策提言も行っている先進的な実例を取り上げる

ということとしました。

この企画は今後の民医連の方針全体や医療活動に大きな示唆を与えるものと確信しますので、是非ご参加ください。

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