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2013年4月22日 (月)

海老坂 武「加藤周一ー二十世紀を問う」岩波新書・・・三つの謎について

加藤さんが2008年12月に亡くなって、その後、加藤論が多く世に現れ、生前には知りえなかったことがよくわかるようになった。

この本も加藤さんについて系統的に知るには欠かせない一冊になるだろう。

例えば、加藤さんが小学、中学を通じて友人をほとんど持たず、家にあっても父親とは交流がなく孤立していたのではないかという話なども初めて気づくものである。

小さなこの本を要約することにほとんど意義はないので、この中で疑問とされていることを3点挙げて、それについて僕の推測を書いて置くことにする。丸で囲んだ数字が僕の意見である。

1:加藤さんは小林秀雄の生前になぜ明確に彼の戦争協力批判を展開しなかったのか。小林に似た立場に居たドイツのゴットフリート・ベンの批判でお茶を濁したのはなぜか。92ページ

①加藤さんの尊敬する渡辺一夫と小林秀雄はわずか一歳違いの兄弟弟子で、批判しにくい大先輩だった。その姿勢は大江健三郎氏にも共通する。これは文壇の権威だから遠慮するということとは無関係な、仲間うちにのみ通じる儒教的美徳である。
②小林秀雄の戦争協力は消極的で批判するに及ばないものだった。唯物論研究会の戸坂潤を支援するなどという行動も小林にはあった。
③小林秀雄は、娯楽的な文章運びの伝染性が強いだけで、思想的にはほとんど影響力のない人物だったので、批判の必要がなかった。坂口安吾も批判していたように「美しい『花』がある。『花』の美しさというものはない」などという愚かな文章を積み重ねていただけの人物だからである。

2:終戦直後に米日合同の広島原爆調査団に加わった重大な個人的経験をなぜ語らなかったのか。僕も下関市立大学での講演の際、「広島体験はあなたに何をもたらしたか」と質問したが、「原爆は二度と使ってはならないと思った」という平凡極まる答えだったことから、むしろ質問したことを恥じた。あまりに重い体験で答えに窮したのだと考えたからである。海老坂氏は、加藤さんがそのとき思考を封印し判断停止状態だったのではないかと推測している。157ー158ページ

①僕が下関市大講演後に考えて気づいたのは、この米日合同調査団の経験を語ることは米国から強く禁じられていたのではないか、ということである。軍医として被爆し、いまなお語ってやまない肥田舜太郎さんとは立場が全く違っていたのである。たとえ相手がアメリカでも約束は守るという義理固さは1の小林秀雄に対する態度にも通じる。

また、211ページもあるように、1960年の安保闘争当時、まもなくバンクーバーの大学に職が決まっており、将来に亘る行動に責任が持てないという理由でデモにも加わらなかったらしい、ということとも関連する。

3:ソ連や中国などのエセ社会主義への批判が鈍いのはなぜか。165ページなど

僕も加藤さんが「チベット独立運動を支持しない、なぜならダライ・ラマのもとでの独立は政教一致になるから」という意見を言ったときにやや呆れた。一体、これは何故だろう。不破さんの中国びいきに不思議さを感じるが、それにも似ている。

①これは、ソ連や中国にいる友人の立ち場に配慮しているとしか思えない。

けっきょく、三つの謎の謎解きに共通するのは、加藤さんが、先輩や友人の情に左右される人だということである。
それは、それ以外のことで示される合理性と対照的で面白い。

さて、こういう無意味な感想を書き連ねて夜更かししてしまう自分はどういうものだろう。


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