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2013年4月27日 (土)

4月の医療生協理事長挨拶

今週の忙しさがたたって、独自の準備時間がとれず、ブログやFacebookに書いたことを並べて見ただけというものになってしまった。

それでも、細かいところは若干違うので、記録のためにアップしておくことにした。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ゴールデンウイーク直前で今日も絶好の御天気ですが、会議参加ご苦労さまでございます。

今日は議題が多いので、遠慮して、私の挨拶も短めにしたいと思います。その代わり資料がやや膨大になりました。

○ 資料1としましたのは、今朝の新聞に折り込まれていた「サンデーうべ」の宣伝の一つです。宇部市厚南で熱心に往診に取り組んでいる開業医さんがクリニックの横に作っている居宅、通所系の複合体を宣伝しているものです。「男のディ・サービス」などなかなかユニークです。

男性の理事さんの中には、興味がひかれる方もおありでしょうか。ディ・サービスのプログラムがだいたいに女性向きなので男性からは評判が悪いということで始めたものだそうです。

この宣伝でも分かるように「病院から在宅へ」という流れは日本全体で非常に強いものになっています。国民の意識調査でも「死ぬ時は病院でなく自宅で」という人が多いのでこれは必然的なことかと思えるのですが、このままで本当にいいのだろうかという気もします。

○ 資料2に上げました421日のTV番組 NHKスペシャル「家で親を看取る」を見られた方はいらっしゃいますか。

その中で、私が最も印象に残ったのは、誤嚥性肺炎の悪化をくり返す父親を在宅で看取ろうと決意した娘さんが、在宅を専門にしている医師に相談したシーンでした。

「急に容態が悪くなったときに、もし先生に連絡がつかなければ救急車を呼んだらいいのでしょうか」という娘さんの質問に、医師は「救急車はすぐに来ませんから・・・」と答えました。

これに対し娘さんは「あぁ、わかりました」と呟きます。二人の間にどういう合意がなされたのでしょうか。

そのあと、娘さんとその子供でお父さんを看取るシーが続きました。
医者が言葉にしなかったのは「覚悟を決めてそのまま家族が看取るしかない」ということでした。

○ 資料3としました雑誌「いのちとくらし 研究所報 No.42」 は介護保険制度に関する座談会を記録していますが、その11ページで、

全日本民医連副会長で介護福祉部長をしている山田 智医師が

「昨年のケアマネジメント学会で(日本の医療政策に大きな影響力を持っている)慶応大学経済学部の田中滋先生が、地域包括ケアに関する発言で

『本人と家族の覚悟が必要』

というスライドを示したが、覚悟という言葉に大いに疑問を持った」  と語ったあと、

全日本民医連事務局長に長く在任して、今は千葉の社会福祉法人の理事長になっている八田英之さんが

「嚥下性肺炎で呼吸が大変になっても入院できない覚悟を決めて下さい、ということではないでしょうか。

家族に苦しむのを(そのまま)見ていろと言うのですから、いまの在宅医療はすごいものです。

在宅医療のお医者さんの中には家族がそういう覚悟を決めるのを容認する方もありますね」

と語っています。まるで、NHKの番組を見ていたかのような発言ですが、それは逆で、そういう事実があふれているからNHKが番組にしただけなのです。

○ 資料4は同じ雑誌にあった藤松素子(佛教大学 教授)の「2012年『改正』介護保険法・改定介護報酬の問題点~介護保険で私たちの介護保障は可能か?!~」という論文ですが21ページでこう言っています。

『「効率化、重点化」の名の下に、地域における十分な受け皿が用意されないままに施設から在宅に強力に誘導され、軽度者と経済負担の困難なものは制度から排除され、幻の地域包括ケアシステムの下、最後は地域における互助のみに依存してどうにか在宅での生活をつないでいくしかない状態が確実に作られていっている。』

『あらためて日本における介護保障の在り方を抜本的にデザインしなおすときだ』

まったくこの通りだと思います。私たちはそういう決意で地域包括ケアに対峙していかなければならないと思います。

○ そういう時、私はどうしても見過ごせない文言に出会いました。

資料5は社会保障制度改革国民会議がパブコメを募集しているというお知らせですが、この会議の位置づけ、そのもとになっている社会保障制度改革推進法の内容が要領よく分かるので付けました。

国の「病院から在宅」へという流れを決めたのは昨年20128月の「

税と社会保障の一体改革関連法」ですが、その中心が「社会制度改革推進法」です。

資料6は422日に発表された社会保障改革推進国民会議第10回会議における論点整理です。

最初の段落で目が点になりました。

簡単にいえば、いつでもどこでもお金の心配をせず良い医療をめざすのはやめた、これからは、必要なときに適切なところで適切な医療を最小の費用で受けるように国民は努力せよ、というのです。

これが当たり前のことを言っていると思ってはいけません。

「不必要なときに医療を求めてはいけない。

必要か不必要かは診察の結果で政府が判断する。

ただの風邪なのに夜なかに急に心配になって急患としてくる

のは、

不必要な受診と認定して医療費の保障はしない。

まして救急車で来たら救急車料を自分で払ってもらう」

「医療を受けようとする時はその病気に適切な医療機関に行かなくてはいけない。

適切な医療機関かどうかは診察の結果から政府が判断する。

胃がんが心配といって専門機関にやってきて胃がんが見つからなけければ

適切でない医療機関を受診したと認定して

医療費の保障はしない」

「適切な医療内容でなくてはならない。

適切な医療内容は政府がガイドラインで指示する。

高齢者の肺炎に高い抗生物質を使う、呼吸困難に人工呼吸を開始する、高齢者の腎不全に透析を開始するなどは

適切でない医療内容だ。

これには支払わない。」

「医療費が最小になるように医者も患者も努力すべきだ。

麻生副総理がつねづねおっしゃるように

酒や煙草をやりたいだけやって体を壊した場合は

無駄に医療費が増えるような振る舞いだと認定して、罰する。

同時に患者は全ての医療に当然費用を負担すべきだ、無料なんてもってのほか」

要するに、生活条件の改善や、2次予防的な受診の大切さを否定して、私たちに挑戦状をたたきつけたわけです。

○ さて、こういう事態をどう切り開いていくか、という問題で、私も名案が出ないのですが、ともかく今山口民医連にいる医師のように、住民と力を合わせて医療を変えていく医者を増やすことが必要だろうと考え、山口大学地域医療推進学講座(山口県の寄付講座)に教授の福田吉治先生を訪問しました。

福田先生は東京医科歯科大学出身で本業は優秀な社会疫学者です。日経サイエンス20063月号にサポルスキーの「貧しい人はなぜ不健康か」を訳したこともあります。この問題では出色の論文なので資料7に付けておきました。帰られてぜひご一読いただければ幸いです。こういう視点を持っている人なので、私もある程度期待しているのです。

話のテーマは、「どのようにして山口県に総合診療医養成システムをつくるか」としました。

聞いてみると、すでに福田先生の呼びかけで県下の公的病院にプライマリ・ケア連合学会の指導医4人、認定医20人が生まれていました。これについては資料8の山口県が出しているパンフレット「山口県地域医療の風だより」をご覧ください。

4ページに「長州総合医・家庭医養成プログラム」のスタートのことが詳しく述べられています。話の中で注目したのは、社会保険病院が全体として総合診療医養成方針をトップダウンで降ろして山口県にある二つの社会保険病院、徳山中央病院、下関厚生病院の2病院が特に熱心だと言うことでした。

○ 実は山口民医連は、県のプログラムが出来る以前に家庭医養成の研修プログラムを作り、県下最初の家庭医学専門医の研修医として松本翔子医師を迎え、すでに私を含め指導医3人も資格を得ており、県とほぼ拮抗する体制にあるのですが、そこは無視されているわけです。

民間中小病院に総合医養成のプログラムに参加するよう呼びかけを広げる予定はないし、また県の修学資金を貸与されている医師が民間病院に入職することも認める見込みはないという姿勢でいると福田先生は言いました。

 ○ そこで私が強調したのは「へき地医療の自治医大グループ」、「救急医療の公的病院グループ」、「在宅、高齢者医療の民医連、民間病院、診療所グループ」の3グループががっちりスクラムを組んで横断的に研修先を組織しなければ、総合的で魅力的な研修プログラムはできないのではないか、そうやって、全国から総合診療を学びに来る山口県にしよう、ということでした。

福田教授はそれは否定しなかったので、私たちのほうで県下の民間病院や在宅医療に熱心な開業医に呼び掛けて合流しようと告げて帰りました。

それもうまくできるのか、というとあまり自信はないのですが、まぁやるしかないと言うのが今の気持ちです。

 ○ 本当に住民サイドに立った在宅医療を担う住民組織づくり、医師づくりにおいても私たちは挑戦者であり続けるしかない、元気を出して新年度に向かおう、というのが今月の私の結論であります。どうかよろしくお願いしたいと思います。

以上でご挨拶を終わります。

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