池澤夏樹「氷山の南」文芸春秋2012
池澤夏樹の新作が出版されたので、途中で止まって読み終えていない旧作を読了しておこうとしたもの。
2009.9.1から2010.9.30まで東京新聞系列で連載された新聞小説なので、東日本大震災の影響はない。
率直に言って、読みやすくなかった。途中で止めていたのはそのせいだ。少年の冒険譚めいたものは嫌いだし、ぽきぽきした文章が魅力的でない。
開発と浪費の悪循環を断ちながら、必要な開発は進めるということは、僕にとっても、センのような人にとっても重要な問題だが、このような架空の物語で提示されても困惑するばかりだ。
池澤夏樹の良心と活動力を認めることについて僕は人後に落ちないつもりだが、「すばらしい新世界」2000以降 面白い作家でなくなっている気がする。
例えば、大江健三郎や井上ひさしなどに比べると、幾分か「素人作家」というべきなのではないだろうか。それは加藤周一の小説もそうだ。李恢成にもそういう気がする。
そう思いながら、その下手さ加減で酷似する作家がいるのに気がついた。
僕が中学生の頃、よく読んだ井上 靖だ。中学生の目から見ても文章が下手で、その一方、具体的な事実を正確に小説に取り込もうとする熱意の強さと言う点では、二人はほとんど同じ質の作家に思える。
二人とも芸術院会員だというのも一致している。(芸術院会員の作家はたくさんいるが)
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