日本医事新報「臨床医学の展望2013」
【肝臓病学】
1 C型肝炎
○HCV用のプロテアーゼ阻害剤「テラビック(一般名テラプレビル)」2011.11から使用開始。ペグイントロン・レべトール・テラビック3剤併用でのウイルス持続陰性化率SVRは70%。副作用は重症皮膚炎(スティーブンスージョンソン症候群)や急性腎不全。
○C型肝炎治療ガイドライン2012.5 初回治療例では①年齢ー66歳以上か65歳以下か ②患者の遺伝子 IL28B SNP の対立遺伝子カ間の組み合わせが多数派(メジャー・アレル)か少数派(マイナー・アレル)か、 ③HCVコア領域70番目に変異がない(wild)か変異がある(mutant)か、を検査して治療方針を決めていく。
患者がメジャー・アレルの時は3者併用の奏功率が高い(83.3%)。ウイルスが変異型であるとき奏功率低い。
○リーバクトやアミノレバンENなど分岐鎖アミノ酸含有製剤はインターフェロン治療の定着率(アドヒアランス)を良くする。
○トロンボポエチン受容体作動薬(商品名エルトロンボパグ)=2010.12 特発性血小板減少性紫斑病に適応 が肝疾患での血小板減少にも有効。
2 B型肝炎
○HBVのDNAはステロイドで複製が活発化するので、HBVキャリアにステロイドを与えると重症肝炎に至る可能性がある。
○従来はHBV感染既往に過ぎないと思われていたHBsAg陰性・HBsAb陽性の人も、HBc抗体陽性の場合は、実は肝細胞内や末梢の単核球内にHBVが潜んでいることが分かっている。これにステロイドや抗癌剤、免疫抑制剤、生物製剤を投与するとHBVが急速に増殖し重症肝炎に至りうる。これを de novo B型肝炎と呼ぶ。HBV-DNAを測定して陽性で、この危険性が予測できる例には、あらかじめバラクルードなどの核酸アナログ製剤を投与する必要性がある。
*疑問。こうして始めたバラクルードが中止できるのだろうか?・・・原病治療終了後1年間位を考えているらしい。
3 脂肪性肝硬変
○原因不明の肝硬変で、中途半端な飲酒量のため、1日70g以上飲酒をするアルコール性肝硬変でもなく、1日20g以下しか飲酒しないNASH関連肝硬変とも診断できない例をどう呼んだらよいか。
すなわち中途半端な飲酒量とは20~70g/日のことである。
「脂肪性肝硬変」という名称が決まった。問題なのは、この群がアルコール肝硬変に比べても糖尿病、そして肝癌の合併率が高いことである。肝癌の合併率はアルコール性肝硬変が34.3%なのに対して、この群では54.5%になる。また肝癌発症年齢が平均71歳とNASH関連肝硬変より若い。
4 HCV感染とインスリン抵抗性
HCV感染者はインスリン抵抗性が大きく、それが肝癌合併とも相関している。血中インスリン濃度が高いことや、SU剤との肝癌合併との関連も指摘されている。
インスリン抵抗性を改善するBG剤メトグルコは肝癌発生を抑制するらしい。
インクレチンの作用を増強するDPP-4阻害薬(ジャヌビアほか)はHCV関連の肝癌を抑制するのか、促進するのか?
5 C型慢性肝炎と魚摂取
○HCV感染者の多くは慢性肝炎を発症しているが、30%は持続してALT(かってのGPT)が正常のままである。これをPNALT(ALT正常が持続する状態)と呼んでいる。PNALTと最も関連している食習慣は魚の摂取だった。けっして徳島県鳴門市に関連しているわけではない。わかったかな?
慢性肝炎の原因に関わらず、1日160gの魚を食べると肝癌のリスクが0.64倍になる。
*ではエイコサペンタエン酸(EPA)製剤 、商品名エパデールやシスレコンがそれと同等の効果があるのだろうか?NASHではシスレコンが第一選択になったらしいが。
【神経病学】
アルツハイマー病の研究が進んでいる。
専門的すぎてよく理解できないが、HDLコレステロールと認知機能のには関係があり、さらにHDLコレステロールの乗り物部分であるアポリポ蛋白E(ApoE)の高値が認知機能の良さと関係していることが分かってきたようだ。
ベキサロテンという薬剤を、認知症のマウスに投与すると、脳内でApoEが増えアルツハイマーの原因と考えられているアミロイドβ(Aβ)過剰を改善するという研究も現れている。
ApoEの遺伝子にはε(イプシロン)2,3,4という対立遺伝子の組み合わせ(アレル)があり、アルツハイマー病ではε4が多い、ε2を持っているとアルツハイマーになりにくいということも書かれている。
【脳神経外科学】
○3mm以上の未破裂動脈瘤6697例を10年間観察した調査UCAS Japan が発表された。年間破裂率は0.95%、→1%。大きさで直径7mm、部位では前交通動脈と、内頸動脈ー後交通動脈の動脈瘤が有意に危険。
○2012年 rt-PAアルテプラーゼ投与条件が発症4.5時間まで緩和された。
○2012.7 外傷性脳性髄液減少症→脳脊髄液漏出症のブラッドパッチが先進医療として認定された。
【消化器病学】
○炎症性腸疾患治療がステロイド一辺倒から大きく変化。
抗TNF-α抗体製剤 キメラ型 レミケード 、完全ヒト型 ヒュミラ
IL-6レセプター抗体製剤 アクテムラ
○FD 機能性ディスペプシア― 上腹部症状
セロトニン1A受容体作動薬 ガスモチンだけでなくセディール(抗不安剤
でもある)も有効
胃の弛緩障害に有効
○IBS 過敏性腸管症候群―下腹部痛と便通障害
コロネル、セレキノン、イリボー(男性のみ検討された)
○マグミットに変わる下剤 アミティーザカプセル 腸液分泌の促進
○胃癌の20%程度に ハ―セプチン有効
○ピロリ菌持続感染⇒胃粘膜委縮+腸上皮化生⇒分化型胃癌発生
未分化型癌にもピロリ菌関与。
委縮が高度に進めんだケースでは除菌しても胃癌発生
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