アマルティア・セン「不平等の再検討 潜在能力と自由」池上幸生他訳、岩波書店1999年
一般向けに書かれたものだというが、相当難解で、かつ繰り返しが多いので、最後まで読み通すには努力が必要である。
センを初めて読む人はまず序章と第1章だけでも読むといいかもしれない。
すでに一度このブログに書いたことだが、こんな風に考えたらいいのではないだろうか。
潜在能力というのは、社会が作り上げた生活機能の集合であるクラウド「S」である。人はそこから生活に必要なアプリ(個別の生活機能) x をダウンロードしてくる。
X1,X2,X3とそろえるA君もいれば、Xa、Xb、XcとそろえるB君もいる。
どんなアプリをそろえるかが完全に自由であれば、そろったアプリの違いは不正義や格差などというものでなく、「人間の多様性」を意味し、それぞれの違いこそ人間社会の発展の必須条件となる。
これはマルクスも言っていたことである。
しかし、実際の世界には「貧困」あるいは「不正義」と呼ばれる状態が厳然としてある。それを分類すると次の4類型になる。
①クラウド「S」の形成そのものが不十分で 生活するに十分なアプリ群をそこにそろえていない状態 (途上国)
②クラウド「S」は豊かでアプリX1・・・・Xnは豊富にあるが、それをダウンロードする自由が平等に与えられていない場合(先進国中の新自由主義諸国)
③クラウド「S」は一応準備されているが人間の多様さに照応するアプリの豊かさがなく、誰も同じアプリの組み合わせしかダウンロードが許されていない場合(貧しい社会主義国)
④ある人々によって主観的には自由に選択されたはずのアプリの集合X1・・・Xmを改めて客観的に吟味してみると生活していくには十分でない場合(女性差別ほか差別の強い社会で、被差別者が不当なことをあきらめて満足している場合)・・・実際には①②③の中に紛れ込むが、独立させて分類
この四つををなくす闘いが貧困をなくし自由を確立するための闘いである。
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