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2012年12月17日 (月)

伊古田 俊夫「脳からみた認知症」 講談社ブルーバックス2012・・・中心は「社会脳」の存在の理解だが展開はやや不十分、ケア・マッピングについての示唆も簡単に書いてある、デフォルト・モード・ネットワークのデフォルトはコンピューター用語ではないか?

著者は民医連の医師であるが直接の面識はない。
ただ、北海道勤医協中央病院の院長時代の伊古田先生から宇部の方に直接電話をもらったことがある。それは、僕が最も信頼していた後輩を失う結果となったもので、僕にとっていまもトラウマになっているものだ。

そのことは別にして、理事会への出張時、御茶ノ水駅前の丸善に平積みしてあったこの本に気づいた。名前に覚えがあったからだった

民医連の医師がブルーバックスを書くことは珍しいのではないか?

早速買って、帰りの飛行機で読み始めると面白くて止まらない。

僕も卒後37年目を迎えたベテランに数えられておかしくない部類の医者なのだが、認知症のことは十分勉強しないで過ごしてきた。
3年前から全日本民医連の高齢者医療委員会を担当し始めたので、遅ればせながら日本神経学会の「認知症疾患治療ガイドライン2010」などを読んでいるのだが、記述が無味乾燥という気がして身が入らなかった。

しかし、この本で読んで、はじめて興味が湧いた箇所がたくさん出てきた。

いまは、まず一般向けのこの本から読書ノートを作らねばならないと思っている。

この本を読み進めると、認知症の多様性がよく理解できて、認知症という病名も、アルツハイマー病の頭頂葉における高次の認知機能統合障害を重視しすぎるものではないかと思えてきた。

側頭葉にある扁桃や海馬の名前は有名だが、これまでこの本のように分かりやすく説明してもらったことが無い。記憶の再生は前頭葉の働きで海馬には無関係だと言うことも初めて知った。海馬は短期記憶を長期記憶に変換するだけである。

最近の私は前頭葉の記憶再生機能が低下してメモリーワーク全体が不十分となり、記憶を最大限動員する必要のある敵対的な相手のある討論に耐えられなくなっているようだ。パワーポイントであらかじめ記憶を再生しておける講演でなければうまくこなせないということである。

(そういえば、東大で脳外科と国際地域保健学の教授をされていた若井 晋先生も現役中に若年性アルツハイマー病に罹患されたのだが、それが知られる以前に山口にお呼びして講演をお聞きしたときの
演にはどこも破綻が無く見事なものだった。ただし接待の食事の時の会話はどこかちぐはぐだった気はする。)

ともあれ、伊古田先生のこの小さな本は、認知症に興味を持つ若い医師や、認知症になりかっている私のような医師がまず最初に手に取るべき一冊という評価を得るのではないだろうか。
前頭葉連合野の3領域の説明も分かりやすい。外側の領域が知能に、基底部(腹内側)が理性に、内側が社会性や他人への共感に関与するというのは、7月に大阪大学で聴いたイチロー・カワチの行動経済学や、児玉聡「功利主義入門」ちくま新書2012の記述と関連する。
前頭葉連合野の基底部での理性的認識と、側頭葉の内部にある扁桃による直観的認識の間に生じる食い違いを私たちは、倫理上の軋轢、あるいは倫理上の問題と感じるのだ。
**認知症の状態改善に有効なことが最も確実に確かめられているのは、患者自身に対する何らかの工夫でなくなんと介護者の教育のほうなのである。これの詳細はこの本には詳しく書かれていないが、そのひとつが認知症ケアマッピング(DCM)法である。認知症をもつ人を6時間以上連続して観察し5分ごとによい状態(well-being)からよくない状態(ill-being)までのどの段階にあたるかを評価し、これを表にする。これをケアマップと呼び、その作成過程自体が介護者の認知症の患者の概観を把握する能力を向上させ、それが認知症患者の状態を改善するというのである。
***私とは何者か?の問いに答えることが見当識であり、それは前頭葉、頭頂葉、側頭葉を結ぶデフォルト・モード・ネットワークで担われている。ところでこの「デフォルト」を著者は「欠席している=休んでいる」と解釈しているが、そうではなくてコンピューター用語の「初期状態」という意味ではないだろうか。だれでも、自分は何者かについてはデフォルトの状態で意味を与えられて存在している。それがぼやけるのが認知症の大きな特徴だということではないだろうか。
****著者からみると、リハビリには3つの政策要求がある。
①医療保険でのリハビリの6か月打ち切りの期間延長(20%の人は6カ月を超えて改善がある)
②打ち切り後も介護保険で、理学療法、作業療法、言語聴覚療法のフルメニューが提供されること
③介護保険の適応のない40歳未満の人にはリハビリの打ち切り期限を設定しない
である。
介護保険のレベルの低い療養保険化を認める内容となっているところに、やや疑問を感じるが、当面の要求としては妥当といえるだろう。
*****不覚にして知らなかったこと・・・脳卒中後遺症以外でも、すなわちアルツハイマーでも痙攣は起こる。アルツハイマーは進行性の脳の変性疾患だから当然のことなのである。

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コメント

『脳からみた認知症』(講談社BB)の著者です。丁寧な書評をありがとうございます。何点かコメントさせていただきます。
①デフォルトの意味ですが、レイクル教授(2001)はこの用語を「休んでいる状態」として使用しています。人間が仕事を終りくつろぎ休んでいる時に活動を開始するシステムを「デフォルト・モード・ネットワーク」と名付けました。その時、様々なことが心に浮かび自分を振り返り反省し、自己の生き様の未来を考えます。
②社会脳については本書では記述が不十分です。巻末の文献を参照ください。私のBLGにも掲載しており、下記から閲覧できます。
http://yahoo.jp/UGKE4e
③リハビリについては大きな問題があることは確かです。これはまた別の機会といたします。
 著書を取り上げてくださったことを感謝します。今後ともよろしくお願い申し上げます。
                T.I.

投稿: 「脳からみた認知症」著者 | 2012年12月26日 (水) 13時01分

伊古田先生、丁寧なコメントをいただき恐縮しています。「人間が仕事を終りくつろぎ休んでいる時に活動を開始するシステムを『デフォルト・モード・ネットワーク』と名付けた」というのは
なるほどそういうことは日常的にあると納得しました。

投稿: 野田浩夫 | 2013年3月 5日 (火) 11時19分

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