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2012年11月 2日 (金)

湯浅誠・茂木健一郎「貧困についてとことん考えてみた」NHK出版新書2012 パーソナル・サポート・サービスは結局、生活保護削減のツールに過ぎない

僕よりやや若くて新潟県の民医連で診療所長をしているある勤勉な医師が「必読」だと言っていたので、取り上げた本である。

確かに、湯浅誠氏がどういう地点に行ってしまったのを知るには「必読」かもしれない。

しかし、貧困問題を知るうえでは必ずしもそうではない。やはり、彼は後退していると思う。以下、いつものように順不同で気づいたことをメモしておこう。

◯は本書からのノート  *はそれから波及して思いついたことである。

◯ 憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活」は金だけでは達成できない、というのが、二人の出した結論である。

  *これまで論じられてきた生存権は、主に金でできることに関わる。これは、日本の社会保障政策が金を偏重し、教育や医療や住宅の現物保障が少なかったことの反映でもある。
金にかかわらない生活の質、すなわち自律、社会参加、社会の援助などは健康権という範疇で論じられつつある。もちろん、両者のあいだに厳密な区別はありえない。今後、統一して論じられることが望ましい。

156ページ前後 

◯「ある政策を実行する時は、それに反対する人の金も使う。だから、説得や調整が必要だ」というのが湯浅の特徴的な発言である。

*だが、これはおかしい。自民党が自分勝手に国民から税金という形での大収奪を行い、その金を自由に使っていたことは見逃して、反自民政権が貧困者対策に使う金は富裕層の許可をえなければ使えないというのは、あまりに非対称的な議論である。富裕層の金は本来、多数の貧困者から奪ったものであるということをなぜ湯浅氏は理解しないのか。

◯決定権限と調整責任はセットだ。調整責任を取るつもりがないものは、決定に加わってはならず、調整責任を取るものの決定に従うべきだ。
*同じ箇所の別の言葉だが、湯浅はどこまで落ち込むのか。調整が必要だというのは、予算作成はむつかしいということであるのだが、富裕者の増税は当然のことであり、多くの人にとって、それは奪われたものを合理的に取り返す方法なのである。

◯この本の主題は2009年に湯浅氏が内閣府参与となって手がけたパーソナル・サポート・サービスというモデル事業である。政府の予算が付いて、全国27地域に32箇所設置されている。うち7箇所は大阪にあるが、これは大阪が今や貧困の首都だからである。*政治哲学でも貧困の首都だがリアルな貧困においても大阪都なのである。

◯これまで、福祉といえば、高齢者、障がい者、子どもが主な対象とされてきたが、いまや、不安定な雇用に悩む生産年齢層が大きな対象として浮かび上がってきた。その時、福祉はどう変容しなければならないかという問題意識は正しい。 ◯パーソナル・サポート・センターはそれに対応したサービス形態だが、多様な専門家が一人の人のために知恵を絞るというもの。 *福祉の世界では新しいのかもしれないが、この形態は医療の世界では普通のことである。患者を中心にして多職種参加のカンファレンスを開いて、治療方針を決めることは病院のなかでは日常的に行われている。

*むしろ、問題なのはそのサービスが社会福祉事務所の充実ではなく、民間のNPOを利用して、政府の責任の外で行われようとしていることである。これは、憲法25条2項に明記されている国の責任を果たすことの放棄でしかない。

*実際に山口のセンターを報道した11月1日夜の山口県のTVのローカルニュースをみても、ほとんど専門性が感じられないメンバーが精力を注いでいたのは、どうしたら生活保護受給を相談者に諦めさせるかだった。

結局、湯浅氏が肝入りで作ったこのセンターは生活保護受給削減の最前線に立つものでしかなかったと言えるだろう。

189ページ◯官僚の見方。茂木健一郎氏は簡単に官僚機構は政治家をサポートするものと考えている。*しかしこれはボナパルティズムなどで顕著に現れる国家を担う官僚の特権階級化を知らないものである。

◯これに対し、さすがに湯浅氏は市民側が官僚機構に負けないセカンドオピニオン機構を持つ必要性を指摘している。*直接民主主義が政治の主流になる時、おそらく、これこそ政党が担うべき機能となるだろう。

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