« 生存権と健康権の関係 | トップページ | 最悪の1週間と、飛行機の中で考えたこと:①患者との共通基盤を作るために医師は修練する ②医療倫理とは結局文学的センスのことで、臨床倫理委員会のない病院は病院ではないだろう »

2012年10月11日 (木)

患者の職歴を聞く工夫

校正印刷という、印刷業の中でも特に有機溶剤濃度の濃い環境で仕事をしている労働者に、驚くべき高率で総胆管癌が発生したのは今年の産業医学上の大事件だった。

問題は、これに驚いた全日本民医連が緊急に同様の事例がないかと全国の加盟病院の外科の総胆管癌の職歴を調べようとしたところ、民医連内で有名な大病院でもごくわずかしか職歴が記載されておらず、調査しようがないという現実だったことである。

そこで、今朝、私は自分が診ている外来患者全員の職業歴を詳細に記載することに決めたが、いざ始めてみると相当の難しさがあることがすぐに分かった。

医療職以外の世間の職業についてほとんど知らないからである。

父親が教員だったので、教員の生活は大体分かる。母親が学校給食婦だったのでそれも分かる。父方の祖父のしていた米作農家、母方の祖父がしていたミカン農家はそれぞれ十分に手伝ってきたので、これも相当わかる。

しかし、それ以外はTVドラマで見たというレベルの想像力しか働かない。お好み焼き屋、洋服デザイナー、下町の女医、ホテルマンって本当にあんなものだろうか。

少し前だが、「製罐工」(せいかんこう)を、缶詰めの缶を作る職業だと思っていた医者がいた。彼にはなぜその仕事がアスベスト被害に関連するのか分からなかった。それもそのはずで、製罐とはボイラーなどの配管をする仕事で、配管にはアスベストが断熱のため厚く巻かれているのである。その医者とはむろん私のことである。

そこで提案だが、「上手な職業歴の聞き方」というテキストを将来作るとして、その前準備のため、中学生・高校生向けの職業案内を診察室の机の上に置いたらどうだろう。村上龍が編集して話題になった、「13歳のハローワーク」
http://www.13hw.com/map/aboutmap.htmlで十分だと思う。該当のところを開いて、患者さんから教えてもらえば、深みが出るだろう。

医師や介護者が患者から教えてもらうことの患者への良い効果は、介護民俗学研究者として注目されている六車由美が力説するところでもある。

|

« 生存権と健康権の関係 | トップページ | 最悪の1週間と、飛行機の中で考えたこと:①患者との共通基盤を作るために医師は修練する ②医療倫理とは結局文学的センスのことで、臨床倫理委員会のない病院は病院ではないだろう »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 患者の職歴を聞く工夫:

« 生存権と健康権の関係 | トップページ | 最悪の1週間と、飛行機の中で考えたこと:①患者との共通基盤を作るために医師は修練する ②医療倫理とは結局文学的センスのことで、臨床倫理委員会のない病院は病院ではないだろう »