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2012年10月19日 (金)

雑誌「世界」2012年11月号「協同が社会を変える」特集 ①内橋克人FEC自給圏 ②広井良典 コミュニティ経済 ③吉原毅ー原亮弘対談何よりも信用金庫が協同組合の輪の中にいることが印象的、『エネルギーだけでなく食糧も自給する「永続地帯」』はFEC自給圏に似る

①内橋克人:「社会変革の力」としての協同

今年、2012年は国連の「国際協同組合年」だが、僕はなんとなくそうなっているのだろうと思っていた。

ところが、それには深い背景があった。

2009年の国際協同組合同盟(ICA)総会の特別決議が「いまこそ、世界経済の行き詰まりをもたらした市場原理主義の克服が求められている」としたことが国連を動かし、国連は1999年のミレニアム宣言を2010年に見直し、貧困撲滅の新しい 宣言を出さざるをえなくなった。そのとき、その証として2012年を協同組合の年としたわけである。国際協同組合同盟ICAは国連経済社会理事会の諮問機関として、国連への影響力が強いのだ。

何かお祭り騒ぎをするためのものなどではなかったわけである。まさに市場原理主義が作り出した貧困と闘うための年として最初から強く意識して位置づけられた年だった。

そういうものになっているだろうか?

内橋克人氏は、アマルティア・センの示唆にもしたがって、「競争セクター」に代わる「共生セクター」とそれを担う「使命共同体」の中心としての協同組合に強い期待を寄せている。

日本では農協、漁協、日生協、信用金庫など多くの協同組合があり、成人人口の大半に当たる8000万人の市民が何らかの協同組合に加入している。これこそが「新しい経済構造を作る主役になり得るはずなのである」。

しかし、日本の協同組合は、「官から民へ」への流れに乗る「新しい公共」(共助)として自らを位置づけようとしたり、自助・互助を強化するような「絆」を唱え、あいまいな標語「よりよい社会を作ります」でお茶を濁そうとしている。

これで、代表的な協同組合である日本生協連は農薬入り冷凍餃子の輸入販売により中毒事件を引き起こした体質を改められるのだろうか。また、身内にも大量の抱える非正規雇用労働者への労働差別を解消できるのだろうか。

内橋氏が主張しているのはFEC(food、energy、care)自給圏を創造することで、それを作る可能性を持っている、あるいはそれに実際に踏み出しているのは日本の協同組合なのだから(長野県のJAあずみや、広島県のJAひろしまが例として挙げられている)、彼らは利益共同体への傾きをいまこそふるい落として、あるべき姿、担うべき使命をいまこそ、明らかにしないといけないということである。運動性と事業性の統一こそ

そのときこそ、真の「協同の出番」である。

②広井良典「コミュニティ経済の生成と展開」

○20世紀は株式会社の時代だったが、21世紀は協同組合の時代

○協同組合が作るのはコミュニティ経済・・・ポランニーのいう互酬に基づいている

○コミュニティ経済の特徴はResilience弾力性

○その例は長野県飯田市の「若者が故郷に帰ってこられる産業づくり」・・・福祉都市

○「人手余り、資源不足」の現状を「ケア経済」に変えることは可能

*やや薄手な議論になっているが、これはこの人の厚生省官僚だった経歴上仕方がないだろう。

③吉原毅―原亮弘対談「新しいエネルギー社会を協同の力で」

脱原発を宣言した城南信用金庫の理事長の吉原さんと、長野県飯田市で市民の共同発電「南信州おひさま進歩」を運営している原さんの対談。

原:エネルギーだけでなく食糧も自給する「永続地帯」になっていくことをめざしている。この思想は公民館運動で鍛えられた

吉原:国際協同組合年の記念事業として東北・東京63信用金庫の初の共同開催で「日本を明るく元気にする『よい仕事おこし』フェア」を開く。信用金庫には地域の創意と工夫のあるスモールビジネスの取り組みが蓄積されている。これを共有したい。

*何よりも信用金庫が協同組合の輪の中にいることが印象的。『エネルギーだけでなく食糧も自給する「永続地帯」』はFEC自給圏に似ている

④百瀬恵夫「協同組織が中小企業を活かす」

日本においては中小企業単独ではどうしても限界がある。その弱点克服のためには、中小企業同士「協同組織」が必要だ。

⑤古川美穂「協同ですすめる復旧復興」

岩手県宮古市重茂(おもえ)漁協は、漁船の購入から復興を開始したが、これまでの慣習を破って、全員に一艘づつ船がわたるまで漁協での共有として、復興を進めている。こうしたことが出来たのは地域の伝統と、現剤の漁協長の優れたリーダーシップがった。

*レベッカ・ソルニット「災害ユートピア」の日本版、産業版

⑥古木杜恵「理念が後景に退いた生協に未来はあるか」

ミートホープ事件、餃子事件、そしてつい最近の下請け法違反による公正取引委員会の勧告など、日生協の不祥事が後を絶たない。

そして、すでに社会的に達成されている合成洗剤の環境負荷軽減を認めないで、なお「合成洗剤排除」を旗印にするなど、生協の理念は単なる商品の厚化粧に陥っている。

その背景は生協理念の喪失。

「人格経済」「非搾取」「権力分散」を掲げた賀川豊彦の理念に帰らなければならない。

⑦田中夏子「社会的排除と闘う協同」

イタリアの非営利協同セクターの報告。

○従来の協同組合と新しいNPOを、社会的協同組合が仲立ちして、「社会経済」を作っている。

○社会的協同組合A型は日本の医療生協に似ている。これは協同組合の架け橋としての民医連という課題に照応する気がする。

○社会的協同組合B型は、障害者雇用を目的としたもので、さまざまな優遇措置がなされ、障害者の当事者主権を保障する協同組合として最近注目されている。

○株式会社であっても社会性と労働者参加を高めて、「社会的企業」として社会経済に参加してくる例もある。

⑧津田直則「モンドラゴン協同組合―連帯が築くもう一つの経済体制

*これは面白いが、モンドラゴンを真似して成功した例はないということが語られており、モンドラゴンから何を学び応用するか、より深い研究が必要のようだ。

**特集全体から考えたこと:経済のあり方を根本的に変える上で二つの道が図式的には描けそうである。

①現在の資本主義経済の中に、協同組合的、地域自律型の経済をゆっくり発達させて、最後の政治的な決戦を待つ。

②大企業ををコントロールする政治的圧力を強めて行く。その後の経済について青写真を持つことにはひたすら禁欲を貫く。

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