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2012年9月 8日 (土)

藤沼泰樹編「新・総合診療学」におけるプライマリ・ヘルス・ケアへの言及

標題の藤沼さんが編集したカイ書林「新・総合診療学 家庭医療学編」は何回か読み直しているが、今日は、実にすっきりした文章を改めて見つけた。それはひっそり隠れていた。

10ページの 家庭医療のプリンシプル 8 「家庭医は街を診ます」の記述である。

「地域への眼を持つ家庭医は、さらに、地域の優先度の高い健康問題を同定し取り組むことにも関心があります。たとえば、都市部でエレベーターのない都営住宅に住む虚弱高齢者集団や、ある母子寮における小児の低い予防接種率などに取り組んだ経験があります。こうした地域でもっとも健康格差のある分野への取り組みはプライマリ・ヘルス・ケアと呼ばれます。いいかえると家庭医は、住みやすい街づくりに関心を持ちます。」

ここではプライマリ・ヘルス・ケアが健康格差と格闘するものだとさらりと述べられている。そのさりげなさがよい。

実はプライマリ・ヘルス・ケアは最初から健康格差解消を志向していたわけではない。出発点となった1987年オタワ憲章の文言はどうであれ、実際面では「健康日本21」のように自己責任論に陥るという大失敗を起こしたうえで、1997年ジャカルタ宣言に至ってようやく健康格差こそが健康問題の中心課題だと発見した。

だとしても上のように分かりやすく書けるのは、藤沼さんくらいのものだろう。本当に頭がよい人だと思う。

ただし、健康格差はあらゆる分野に浸透しているので、もっとも顕著な部分だけに、いわばハイリスク・アプローチの如く関わるというのではなく、言ってみればポピュレーション・アプローチ、すなわち、社会全体の格差構造の改善を目指して行動することが家庭医療のなすべきことであり、それが街づくりでもあるということは訂正しておく必要がある。

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