税金による福祉は上意下達になり、「後期高齢者医療制度」という保険制度になれば住民の自発性が生かされるという議論・・多田羅浩三氏の奇妙な見識・・・それとは別に興味引かれるイギリスの医師の起源・・・僧医→内科医(フィジシャン)、散髪屋→外科医、貧民相手の薬種商あるいはコッテージ病院の医師→総合医(ジェネラル・プラクティショナ―)、市場の香具師→歯科医
地域包括ケアについて調べていて、多田羅浩三『イギリスにおける地域包括ケア体制の地平』 雑誌「海外社会保障研究」2008年春号http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18715003.pdfという論文を読んだ。
イギリスのプライマリ・ケアの様子を分かりやすく説明してくれる文章である。
特にアポセカリーapothecaryと呼ばれる中世以来の薬種商がプライマリ・ケアを担う一般医general practitioner=GPの起源であり、プライマリケアに対して二次的な病院医療を担ってきた(おそらく僧院由来の)内科医師Physicianとは区別されている、という説明は、僕の知識欲を満たすものだった。
(となると、医師の起源は、散髪屋⇒外科医、僧医⇒内科医、薬種商⇒総合医の三つに分けられるということになるのである。ついでに言えば、歯科医は入れ歯を売る香具師(やし)由来である)
同様に、病院にも、へき地病院=コッテージ病院由来でプライマリケア・トラストに属するコミュニティ・ホスピタルと、病院トラストに属する急性期病院があるのである。コミュニティ・ホスピタルに勤務するのはGPであり、急性期病院に勤務するのは内科医physicianである。
身分制が徹底しているイギリスらしい話だと思った。
これからいうと、僕などはお金持ちが顧客のPhysicianではなく、貧民相手のコッテ―ジ・ホスピタル、あるいはコミュニティ・ホスピタルのGPそのものである。もちろん望むところである。
現在専門医・総合医の区別取り扱いが専門医認定の第三者機関の創設と合わせて議論されているが、その背景には貧富を基盤にした身分的な期限があるということを考えるのは、議論を立体的にしてくれるのである。
実は、そんなことはどうでもいい。
ここで僕が問題にしたいのはほぼ、結論に近いところで多田羅氏がこう書いたことである。
「老人保健法によって、税金を財源として実施されてきた『保健事業』が、高齢者医療確保法によって、医療保険制度のもとで実施されるようになった。これらの施策には、税によるサービスが作ってきた『上意下達』の性格を脱し、人々が主役となる『自発型』の制度を育てたいという考えが存在している」
これはいったいどうなのだろう。税金による措置制度は上意下達になるが、保険制度になれば、保険料や利用料を払う被保険者たちの権利が強くなり、民主化されるだろうというのは、介護保険や、障害者自立支援法で使い古され、破綻が明らかな主張である。
これは、最近の地域包括ケアでも、「新たな公共としての共助」という表現で繰り返されており、本来、公的制度の代表だった医療保険制度が公助ではない、それとは別の共助に位置づけられているのである。公助は、「本当に困った人のための生活保護しかない」といういいようなのだ。
そのかわり、最近右傾化の兆しを見せている医療生活協同組合などが、医療保険と並ぶ共助という華やかな位置づけに引き上げられて、体制側に取り込まれようとしている。
俺たちは「自助」「互助」なんかという低い身分ではない、新しい公共すなわち「共助」様なのだ、だからお上によくお仕えしなければと、医療福祉生協連の幹部たちが考えたりしないことを祈っておこう。
話がそれた。
そもそも、税金を財源にすれば上意下達になると、政府側が言うのは、自分たちが税金泥棒だと自白しているようなものである。
税金が財源だからこそ、市民の声が尊重され、真に民主的な制度になる展望を持つのではないか?
国民の負担として保険料と税金の間に本質的な差はないのに区別しようとするのは、税金を支配層による、国家を媒介にした私的収奪だと思っているし、そう扱っている証拠にもならないか。
そういうわけで、実証的な部分では知的にも刺激的な論文が結論ではみじめなごみのような文章になっていると言わざるをえない。多々良氏のためにも惜しむところである。
いったいこの人はどういう人なのか、はよく知らないのでおいおい調べていこうと思っている。
⇒昭和16年 香川県生 昭和41年 大阪大学医学部卒業 平成 11年 大阪大学大学院医学系研究科社会環境医学(公衆衛生)教授であるらしい。
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