大野更紗「困ってるひと」ポプラ文庫
2011年6月に単行本が刊行されたときからずいぶん評判になっている「闘病記」で、著者の対談などもあちこちで目にしてきたので、大体何が書いてあるかは想像でき、読まなくてもいいかと思っていた。
それは駄目である。読まなければ始まらない本である。絶対に読んだ方がいい。
いまは文庫にもなって安くなったことだし、病院の若い職員の必読図書にしたい。
僕は障害者自立支援法に基づく障害者の障害程度区分の審査委員を数年続けており、さまざまな障害者の訪問調査報告を読むだけで、障害者がどんなに健常者の社会から隠されて、フツーの人々の想像もできない形で「生かされている」かに愕然とし続けている。それでも、障害者の世界に触れたという自信など持てない。報告の文字から想像するだけだからである。
医師として毎日直接に患者に接している。だが患者の世界に触れているという自信はいまだない。医師としての業務をこなしているだけだからである。
同様に、この本を読んでも本当のところはやはり理解できないのだろうと思う。
しかし、この本は、そういう本にすぎないけれど、その隙間を少しだけは埋める力がある気がする。
というのは、患者の側の直接の語りが溢れるように書いてあるからである。
患者の語りに耳を傾けることの大切さを知る上で、多くの医療従事者の出発点になりうる本である。
*本筋と関係ないが、2点メモしておく。
○237ページ 『ビルマの難民キャンプで暮らす人びとにカネやモノを援助し続けることは確かに一時的な凌ぎにはなっても、彼らの苦境の根本的な原因を取り除くことにはならない。
最も周辺化され、最も援助を必要としている人びとにとっての最良の支援は、政治的な構造を変革することなしには実現しえない場合が多いのではないだろうか。』
著者の卒業論文の結論である。
○239ページ 『ひとが、最終的に頼れるもの。それは「社会」の公的な制度しかないんだ。わたしは「社会」と向き合うしかない。わたし自身が「社会」と格闘して生存していく術を切り開くしかない。』
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