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2012年6月22日 (金)

WHO 健康の社会的決定要因(SDH)委員会 最終報告2008年 を大学医学部特別講義でどう教えるか

6月26日に医学部3年生に、「地域の健康課題」とい特別講義をする。健康の社会的決定要因と健康権の関連について話す予定だが、これまでは取り上げてこなかった上記2008年のWHO SDH委員会最終報告「この一世代で格差を終わらせよう―今は不正義が大々的に人を殺している」を取り上げる予定で、そのサマリーを読みなおした。

すでに一度、日本語訳しているのだが、改めて読むと発見が多い。

2003年のWHOヨーロッパ事務局編「ソリッド・ファクツ」とはSDHの項目が違うことにも気付いた。たとえば、住宅や医療制度もSDHだとしているのは、ヨーロッパではあえて取り上げなかったことを取り上げざるを得なかったことなのだろう。

いまの日本にもその方が当てはまる気もする。

開発途上国向けなので、表紙以外は使用価値なし、としていたことを大反省。

第1章では生活領域におけるSDH概念の拡張・深化が見られ、第2章では社会・政治領域ににおけるSDHの拡張・深化が述べられている。

第1章

1:「出発地点での公平」

≪何をなすべきか≫ すべての子供と母親を乳幼児期の発達プログラムに組み込もう。それは経済的な支払い能力で格差があってはならない。

≪解説≫少なくとも20億人の子供たちが全世界で彼らが持つ最大限の発達可能性を損なわれている。このことは彼らの健康と、社会全体の可能性に対して巨大な意味をもっている。

≪行動のためのエビデンス≫ 乳幼児期への投資は一世代の中で健康の不公平を減じるのに最も効果があるものの一つである 。

図:恵まれない子どもたちへの栄養補給と心理社会的刺激の効果(ジャマイカにおける2年間の介入研究 )発達スコア(DQ)でみて、恵まれた子ども107 対 恵まれない子ども98 だったのが、2年後には、108対107 になった。

2:「健康な場所でこそ 人々は健康になる」

≪何をなすべきか≫

・都市のスラム改善に投資しよう ― それは優先的に、水と衛生施設、電気、舗装道路をすべての家庭に支払能力を考慮することなく供給することを意味する。

≪行動のためのエビデンス≫ 都市化は公衆衛生の課題を一変させる。特に都市貧困層の中での、非伝染性疾患罹患、事故や暴力性の外傷、環境災害による死亡や打撃が問題である。 人々が暮らす日常的条件が健康の公平に強い影響を与える。良質な住居と避難場所と清潔な水と衛生施設を入手できることは人間の権利であり、健康な生活のための基礎的なニーズである。

3:「公正な雇用と人間らしい労働(Decent Work)」

≪行動のためのエビデンス≫ 労働は多くの重要な健康影響が発現する領域である。

【雇用条件】正規雇用労働者に比べ非正規雇用労働者の死亡率が有意に高いというエビデンスがある。

【労働態様】労働におけるストレスは冠状動脈心臓疾患のリスクを50%増加させるし、高い仕事上の要求を突きつけられること、低い裁量、努力と報酬の不均衡は精神的・身体的健康問題であるという一貫したエビデンスが存在する。

図 スペインの筋肉労働者 雇用契約別でみたメンタルヘルスに問題ある者の頻度 は 永久契約<臨時だが固定的契約<臨時で非固定的契約<契約なし

図 1日2米ドル以下で暮らす労働者のパーセンテージの地域別の違い 1997年、2002年、2007年の経過を追っている。サハラ以南のアフリカ、南アジアでは90%に達し、10年間全く改善していない。

4:「どんな境遇にあっても社会的サポートを」

《何をなすべきか》 ・社会的サポートが、すべての人々を包含するように。不安定な(プレカリアスな)労働に従事している人々を特に重視せよ。

(解説)人生のどんな場面でもそうなのだが、特に病気、障害、仕事や収入を失う場合において、特に人々はサポートを必要とする。

《行動のためのエビデンス》 子どもの貧困と、世代から世代への貧困の連鎖は健康の改善の主要な障害物である。世界中で5人のうち4人が基礎的な社会サポートを欠いている。 世界中の経験からは、所得の低い国々でさえも社会的サポートシステムの創造をスタートすることは可能だと言える。

図 2000年前後における世界20カ国の総家族政策支出と子どもの貧困 縦軸に子どもの貧困率(平均可処分所得の50%以下を貧困ラインとする)、 横軸に生産労働者の賃金平均に占める社会保障支出給付割合(パーセント)。最も悪いのはアメリカで子どもの貧困率22% 家族政策支出10%、逆にノルウエーやスウェーデンでは子どもの貧困率3%、家族政策支出95%である。

5:「全般的ヘルスケア(医療保健)」

≪何をなすべきか≫ ・プライマリヘルスケアに焦点を当てた世界の全員に適用される良質のヘルスケア(医療保健)サービスを作り上げよう。

(解説) 医療保健機関のシステムそれ自体が健康の社会的決定要因であり、他の要因から影響を受けるし、それらへ影響を与える。

≪行動のためのエビデンス≫ ヘルスケアシステムが公的であることを肯定する感銘すべきエビデンスがある。 特にヘルスケアにおいては窓口負担(out-of-pocket spending)を最小にすることが肝要である。毎年1億人以上の人が家庭での破産的に高額な医療費用のため貧困の中に追いやられている。これは受け入れがたいことである。 ヘルスケアシステムはプライマリヘルスケア(PHC)の上に築かれて初めてより良いアウトカムを得る。

このときPHCモデルは二つあるが双方ともに必要である。1予防と治療のバランス「プライマリ・ヘルスケア」PHC 2初期レベルの治療の充実「プライマリケア」PC

図 所得5分位の中で最も低い層と高い層とで基本的な母子ヘルスサービスの利用を比べる 。出生前ケア、経口的脱水治療、ワクチンを全部受ける、風邪の治療、出産援助、下痢治療、発熱治療、避妊剤の使用のいずれにおいても2倍以上から1.5倍の格差がある

第2章

6「すべての政策、施策、事業」
何をなすべきか 
・すべての政策や施策について健康と健康の公平に与える影響を測定しよう 全ての統治行為の首尾一貫性を目指して築きながら。

(
解説) 
少なくとも財政、教育、居住、雇用、交通、そして健康の六つの政策方向があげられる。 
全政治を貫いての首尾一貫した行動が健康の公平の改善にとって必須である。 

≪行動のためのエビデンス≫ 
貿易政策が、際限なく脂肪と糖分に富んだ食料の消費を進ませれば、果実と野菜の生産は損害を受け、健康政策には矛盾する。




自転車ヘルメット法的強制州での頭部外傷は1994年には10万人当たり18人から1998年には10人に低下、法制化しなかった州では18人から13人。

7「健康への公正な資金投下」
何をなすべきか 
健康の社会的決定要因へのアプローチのための公的資金投下を強化しよう。

・累進所得課税に対する国の能力を築き、新しい国内的また全地球的な公的資金投下の可能性を評価しよう。 
《行動のためのエビデンス》 
富んだ国々の社会経済的発展は、公的資金投下を受けたインフラストラクチャーと進歩的で全般的な公的サービスによって強力に支えられているというエビデンスがある。

累進所得課税の強化は貧困の減少に対して、大きな効果があることについてはエビデンスがある。

貧困な国々においてはより大きな国際的資金援助が必要である。 
援助は重要である。援助が経済成長を促進しうるし、実際に促進もする、

 
この40年間、先進国はほとんど開発途上国への援助を増やしていない!! 
1960-2000年 提供国の一人当たりの援助額と一人当たりの富とを比べると 
一人当たりのGNPは1960年を100(11303米ドル)とすると2002年には260(28500米ドル)、 当たりODAは1960年100(61ドル)に対して110(67米ドル)に過ぎない

8「市場との関係」

何をなすべきか 
・すべての経済協定の健康影響アセスメント。 
・健康についての基本的サービス(水や衛生施設など)の整備、そして健康に多大な影響のある商品とサービス(タバコ、アルコール、食品)の規制 。

(
解説) 
市場は新しい技術や商品やサービス、改善された生活水準という形で健康の役に立つ。

しかし市場は、経済的不平等、資源枯渇、環境汚染、不健康な労働、危険で不健康な商品の流通という形で健康にとってネガティブな状態も作り出す。 

≪行動のためのエビデンス≫ 
健康と福祉のための中核的な財やサービスたとえば水・医療保健・人間らしい労働条件の提供を確実にすることと、健康を障害する商品(たとえばタバコや酒)の流通規制という双方で政府の役割は大きい。

 
南アフリカの水の値段(⇒これがこれらの大量死を生む結果となる)
現存の補助金制度で40KL/月を超えれば料金が同じなので富裕層に有利。彼は水を使い放題にしている。これに対して理想的な料金表は40KL/月までは安く、それを超えると急に料金が増えるもので、貧困層への供給に補助金をつけ、大量の水使用を妨げるものである。

9「政治参加・社会包摂・発言権」

《何をなすべきか》 
・健康権の必須項目として、個人とコミュニティの政治参加を保障しよう。 
(解説) 
自分が生きている社会に仲間として受け入れられることは、社会的福利や公平な健康を下支えする物質的、心理社会的、政治的な権利付与にとって中核的なことである。 

《行動のためのエビデンス》 
政治参加を制限することは人間の潜在能力の剥奪に帰着する。すなわち教育・雇用・医学と工業の進歩の享受という一まとまりにおける不公平の中に置いて行かれるということである。 

社会的資源とは健康のためにすべての人が市民として要求と権利を有する条件なのである。 
下から上への草の根的なアプローチを通じて社会のなかで最も恵まれない人々が出会う不正と闘うこと。


図  韓国において最終学歴別に男女の死亡率を検討 1993-1997
男女とも学歴が短くなるにつれて死亡率が高くなる。大学卒を1とすると 
高校卒男1.7 女1.2 中学卒男3.2 女1.9 小学校卒男5.1 女3.3.

実に大学卒と小学卒では死亡率が5倍以上も違う(男の場合)。女性は若干、学歴の影響が少なく現れる。

10「男女の公平」
何をなすべきか 
・男女の公平を促進し、性別を理由にした差別を不法なものとする法制度を創造し実施しよう。 
・教育や技能の格差をなくし、女性の経済的参加を支援する政策や施策を開発し融資しよう。
(
解説) 
一世代のうちに健康格差を減少させることは、少女や女性 人類の約半分を占める の生活が改善され、男女の不公平が解決に向かって努力されて初めて可能になる。女性のエンパワーメントは健康の公正な分配を達成するうえでの鍵である。 

《行動のためのエビデンス》 
多くの国で母親の死亡率や有病率が高いし、妊娠・出産時の健康サービスは、一国内でも国々の間の比較でも、巨大な不公平が続いている。男女の不公平の世代間効果は緊急にもっともっと強力に行動しなければならない事柄である。

名目上の賃金において女性は男性より有意に低い 

サハラ以南のアフリカ4カ国では70%、ラテンアメリカ8カ国では73%、過渡期の10カ国では76%、工業国22カ国では80%。東南アジア6カ国では80% 中東と北アフリカ4か国では81% 。

11「世界政治とグローバリゼーション」

何をなすべきか 
WHOのリーダーシップを強化しよう。


(解説)世界中の人々の健康と生存のチャンスの劇的な違いは国々の力と繁栄のアンバランスを反映している。グローバリゼーションのため、その格差は激甚なものになっている。

行動のためのエビデンス 
グローバリゼーション後期(1980年以降)では勝ち組(winner)と負け組(loser)が世界中の国々の中に現れ、とくにサハラ以南のアフリカと旧ソ連諸国のいくつかでは平均寿命の停滞と逆転の警告が鳴った。

図 平均寿命に対する死亡率による分散効果の傾向1950-2000
1950
6.5年・・・20005.8 

通常、経済が成長すれば死亡率は低下し、国々の間の平均寿命の差、すなわち分散の程度は小さくなっていくことが保障される。しかし、実際には、経済成長にもかかわらず、国々の間での死亡率の差は収斂せず、50年同じ程度の差が続いている。すなわち、経済成長によって消えるはずの格差がなんら縮小されていないことになる。

問題は、こうして広がり、深まったSDH概念をどのように活用していくかである。

まちづくりという方向と、日常診療の改善という、いわばマクロとミクロの両方向があることを講義の中では述べたい。

75分以内に収まる内容だろうか?

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