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2012年6月20日 (水)

今日は「じん肺の日」・・・苦しさが転移する

僕は自覚的には内科の一般医だが、自然に出来た特別の関心領域というのもあってそれがたとえば大腸内視鏡だったり、じん肺だったりする。

大腸内視鏡は60歳過ぎた今も年々上手になってきている。道具がよくなっているというのもあるが、こういう手技はきっと死ぬまで上達していくのだろう。腰が曲がった僕が息を切らしながら内視鏡をして、「どうだ、早く盲腸まで行っただろう」と自慢している姿が想像できて我ながら楽しい。きっとその頃はパンツ型のオムツをして勤務しているだろう。そのころまで、この手技が世の中に必要とされていたらの話であるが。

さて、今日は、朝から夕方までじん肺の患者さんが来る日である。山口県全域を超えて島根県からも来る。

たいていは若いころに出稼ぎして新幹線や高速道路の長大隧道工事で使われた人たちである。僅かばかりの蓄えを持って地元に帰ってしばらくした後、息切れで働けなくなり、山村で貧しい暮らしを強いられてきた。労災補償保険が給付されてなんとか暮らしていけるようになった。

その人たちは僕がじん肺の専門家だなんて言っているが、そんなものではない。

彼らの地元の医者が病院の勤務医も開業医も労災保険診療に臆病で手を着けないので僕が仕方なく診療しているだけなのである。

話は本筋からそれるが、なぜ、医者は労災保険診療を嫌うのだろうか。

僕が暴れる患者の胃洗浄をしようとして眼球を殴られ、その後、殴られた眼が急に見えにくくなったので近くの眼科開業医を受診したら、正直に書いた問診票を見て、受け付けの「美人過ぎる事務員」が「当院は労災診療は行っていません」と冷たく言ったのには驚いた。忙しい診療の合間を見つけて受診した近所の医者にそんなことを言うのか?

「いや、俺らは法人の理事長だからよ、労災保険なんて関係ねえんだよ」と思い切りどすを聞かせて言ってやったら、無言でカルテを持って奥に行き、僕の先輩でもある開業医に相談に行き、帰ってきて「診察されるそうです」と事務的に言った。診察室のいすに座ると先輩は上品に「先生、どうなされました?お忙しいのでしょう」と聞いてきた。落差がありすぎる。

つまらぬことで、また腹が立ってきたが、話を少し元に戻して、田舎で呼吸器の専門医という看板を挙げている人も、「じん肺」というだけで門前払いらしい。

僕が想像するに、そのたぐいの医者は労災保険診療をするというだけで、国庫の無駄遣いを手伝っている、という気持ちでいるらしい。ということは彼らにとって労災患者は泥棒に等しいということになっているのかな?

閑話休題、そういうわけで、朝から何十人という人の新鮮な痰の量と色を記録し、レントゲンを見、そろそろ在宅酸素療法を始めようかという話をし、急に体重が減ってきたという人にはじん肺とは別に胃癌や大腸癌の検査の手配をしないといけない。

動くと息苦しいという訴えばかりが続く。聴診器で聞く音はぜいぜいと濁っている。目で見る痰もまさに膿である。

そのうえ、わずか5分の僕の診察のため、往復4時間という人がざらである。はやばやと面談を切り上げる心苦しさも付きまとう。

朝から夕方までこれにつき合っていると、最後には自分が息切れがしてくる。じん肺がわが身に転移してくるのである。

したがって、大腸内視鏡と違って、腰が曲がった僕がじん肺診療を続けている姿は想像できない。

もちろん、その時までには、じん肺という病気そのものがなくなり、「日本最後のじん肺患者を診療した医者」として若い人からのインタビューに応じている姿があるのかもしれない。それは少し楽しいだろう。

ただし、中国やそのほかの新興工業国では、今後に莫大な数のじん肺患者が生まれてくるかもしれないので、そんな風に珍重されることなどないのかもしれない。

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