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2012年6月 8日 (金)

土木工学と医学の発展の差・・・加藤尚武「災害論」世界思想社2011年を読みながら#1

東京や名古屋などの大都市にある大病院建築の威容は、田舎の中小病院のしがない医師として齢を重ねている僕には、ほとんど恐怖である。

あの中で行われているのが現代の医療だとすると、僕が老人と世間話をしているような日々はなんと言えばいいのかと萎縮するばかりである。

だが、上記の加藤尚武さんによると、大病院の威容を作り出す土木工学と、その中で行われる医療には実は数千年の発展の落差があるとのことである。

上記、84ページ。土木工学の歴史はエジプトでは5千年前にすでに実用的な技術ができて、それがずっと引き継がれている。一方、医学の歴史が、有用性を持ったのは1882年3月24日にコッホによって結核菌が結核の原因だと証明され、感染症克服の道が開かれた時が初めてである。

それまでの医療には有用性などは全くなくて、病態の記述のみが蓄積されていくのを医学の進歩と称していたのである。

しかも医学は、感染症にはかなり有効だったが、生活習慣病となるとかなり難航して、遺伝病に至ってはほとんど手着かずである。

このように土木工学と医学は5千年くらいの発達の差があるのだから、大病院の威容は、エジプトのピラミッドの後光が差しているのだが、その中の医療はそこから5千年は遅れているわけである。

建物にひれ伏す必要はさらさらない。

ところで、加藤尚武氏の文章の本意はそんな老医への励ましにあるのではない。

安全技術が、土木と医療では違う、医療の中でも、感染制御と遺伝子治療では違うという多様性の主張なのである。

ある時代は多様な段階の歴史の複合体だという、注目すべき主張がここでは展開されていくのである。

ところで、加藤氏は、その直前の82ページで、マルクス主義者は「同時期の文化は同じ特徴を持っている」「近代建築にも近代医学にも近代資本主義によって規定される共通性が刻印される」と考えるが、それは間違いだ、とわざわざ言っている。

しかし、それは、マルクス主義についての加藤氏の想像にすぎない。史的唯物論では土台が上部構造を規定するとしているからきっとそう考えているに違いないと彼が思っているだけのことである。マルクス主義がそんな粗雑なものであるわけがない。科学について冷静に論じる人も、こういうところでは簡単に筆が滑ってしまうのはなぜだろう。

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