モイラ・スチュアート「患者中心の医療」 Moira Stewart”Patient Centered Medicine”第2版 Radcliffe Medical Press Ltd 2003の序文を訳してみる
数年前、相当長い時間かけて読んだ本を後期研修医相手に講読しようと思ったところ、実はすでに2003年にその第2版が出ていることを当の研修医から教えられた。2冊注文してもらって今日届いた。
さっそく序文を読んでみたので、その部分だけここに訳出しておく。ここを読むだけでも、「患者中心の医療」の概要が窺われるからである。
序文
患者中心の臨床技法の本質的かつ相互に関連するコンポーネント群は変わらないまま残っているが、この第2版ではその臨床技法が深さと広がりの双方でどのように発展したかをお示しする。
例を挙げれば、「患者との共通基盤を発見する」というコンポーネントの中核的位置は、「患者中心のケア」の枠組みの中で、十分すぎるほど実証された。
同様に「全人的に理解する」というコンポーネントはecosystem health ≪生態環境に支えられた健康概念≫を包含するに至った。
患者中心の臨床技法を教えることは今や国際的な認知をかち得たし、あわせて学習者中心の医学教育法も重要な役割を担っている。さらには患者中心カリキュラムのアプリケーションが、今や現実のもとして、描かれているのである。この10年間に患者中心の臨床技法の研究は、質的にも量的にも長足の進歩を遂げ、それはこの本にも反映されている。
この本は4つのパートに分かれている。
最初のセクションの第1章は患者中心の臨床技法の導入である。その発展、その他のコミュニケーションモデルとの関係も含んでいる。第2章はイアン・R・マックウイニーの手になる歴史的な全体像である。
第2のセクションは患者中心の臨床技法の6つの相互に関連するコンポーネント群について述べている。第3章から第9章までが1から6までのコンポーネントをそれぞれ念を入れて述べている。
臨床家である読者は患者中心のアプローチの6つのコンポーネント群の各々を説明する症例が第3章から第9章までに埋め込まれているのに気付くだろう。
日々の実践のなかに「患者を中心にする」ということを適用することに最も関心が深い読者なら、この症例をまず読んで楽しんでいただきたい。マックウイニーが賢明にも書いたように「活きた症例は統計データが出来ないやり方で生きた事実を私たちにもたらしてくれる」。つまり、症例は忙しい医師たちの実践の中で役だつ典型例をシリーズとして呈示している。全症例とも実際の臨床経験に根ざしているが、名前やデータや地名は関係者の機密確保のため変えられている。
第3のセクションは教育と学習に関する部分で6つの章でなっている。第10章は医学教育の文脈を検討している。医学教育における学習者中心の技法と患者中心の実践の平行関係は第11章に書いてある。患者中心の医療の実践、学習、教育は第12章に描いたように多くの個人別、専門的、体系的な試みがある。第13章は患者中心の臨床技法のための教育方略の詳細や実際上のコツについて触れている。第14章では特別な教育ツールである「患者中心の患者プレゼンテーション」について述べている。このセクションの最終章である15章は患者中心のカリキュラムの発展、手段、評価を述べている。ここでも再び各章に症例が埋め込まれており、今度は、患者、学習者、教師を巻き込んで、患者中心の臨床技法を教えるということの説明に役立っている。
第4のセクションは研究に関するもので、関係文献のレビューと最近研究の知見を組み合わせている。定量的、定性的な方法論が示されている。第16章は患者中心の臨床技法に光を当てる定量的知見を述べている。第17章は定性的研究のレビューで、コミュニケーションを治療成績のばらつきと関連させながら、患者中心のコンポーネント群の効果を示している。第18章は私たちが開発した患者中心の臨床技法についての経験をユニークに評価する方法を描いている。第19章では患者中心のケアの患者認識の方法群と、それらの研究や教育での応用を示している。最後に第20章で第18章や19章で描いた方法群を用いた最近の研究結果をお見せしている。
最後の章では、私たちはすでに経てきた各段階を考慮に入れながら未来像に基づいて結論を出しているのだが、患者中心の実践、教育、研究についてのいくつかの新しい視点や挑戦の可能性を展望している。
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